8.魔城 ゠ 印象とは役に立つものか
8.魔城・前 ゠ 封印と魔王の話
薬房くさいような空気が感じられた。
「あ〜、意識
「了解〜、ディラエラ」
気がついた直後、そんなやり取りが聴こえてくる。
目を開けてまず、視界に映るは模様のない、白の天井。
それはおそらく
後頭部に、それほど柔らかくはない
どうやら、寝台に寝かされているらしい。
すこし頭を動かし、右手
窓のそとでは、夕暮れなのか朝焼けなのか、
やや風が出ているようで、広葉の木々が枝を、
目に
ふと
なんとなく
ひとつの
その窓に張られた
なんたる
窓の反対側、左手
いや、うち一名がたった今、その二名の後ろに見える
残るふたりは
つまり外の
それが済むと片方、ディラエラとよばれた女がこちらの様子を
「気分はどうですか〜?」
思考は
私は一体、どうしたのだったか。
……そうだ。
確か、ラノルディ地方へと向かい。
西部師団第
その後リギシスと出会い、ともに魔王軍の
突如あらわれた魔王キュラトーゼレネンティエーツェと、
敗れた。
……そうか、そうだったな。
それもほぼ手も足も出ずの、完敗だったな。
しかも
やれ、散々だ。
そういえばその、完膚も無いまでに
そんな事が気になって、自らの利き手を眼前へと運び、
動かそうとすれば、変わらず私の言うことを、聞いてくれた。
「……」
生きて、いるな……。
「殺さなかった、のか」
おもわず漏れた私の
「え〜と〜、私たちはただの医務官で〜。むしろ〜、生かすのが仕事ですし〜」
「そ〜そ〜、難しい事とか
……キュラ
何なんだその呼び方は。
しかも、もうすぐ来るとはつまり、魔王
なんにせよ、案の定と言えばそうなのであるが、この者たちはやはり魔王の手下、という事らしい。
そんな彼女らから粗雑に
「それよりも〜、質問に答えてもらえると〜」
「質問?」
「だから〜、気分。どうですか〜?」
そういえば、
「気持ち悪かったり〜、頭痛かったりしませんか〜?」
「んん、ああ。特には」
「そうですか〜。悪くなったらすぐ言ってくださいね〜」
「キュラ
「
「
「だいたいそれって〜、あとで面倒
「
「でもでも〜、目〜覚めるの早かったよね〜」
「そうだよね〜、
「普通ならね〜、一晩くらいじゃ復活できないのにね〜」
「
いや。
待て。
なんだそれは。
魔王に
むしろこちらが
それについて、ちょっと
「ところで、だな」
「はいはいなんです〜?」
「これは?」
右手の甲に、なにやら紋様が黒く刻まれている。
何を示す紋なのかは、その意匠からはまったく読み取れなかった。
「あ〜、それですか〜」
まあ読み取れないというなら、この白い女たちもその表情は、どこか
何を考えているか、そこからはいまいち判読できない。
それでも私のその質問には、素直に応じてくれた。
「封印ですよ〜」
「ふう、いん?」
「そうです〜。理力、使えないですよ〜」
「城内で暴れられても困るしね〜、そ〜いう所は
……理力を、封じられた?
こんな物で、理力は封じれるものなのか。
疑わしかったが、しかし試しに何か
封じることが、
これは
それより今、城内と言ったか。
「ここは?」
「魔王城の〜、本宮第
「ここって実質〜、キュラ
魔王専用の医務室とな。
魔王城と
「天使は、魔界には、入れないはずだ」
「入れますよ〜」
「なに?」
「現に
「それは、そうだが」
「難しい事とか
「沢山、だと?」
神属の者は魔界へ入れない。
魔属の者は天界へ入れない。
それが常識であり、
いったい何が、どうなっているのか。
なにやら
「それよりも〜。
「あ、ああ。そうだな」
「じゃ〜あ〜、ちょっと起き上がってみましょうか〜」
──スッ。
白衣の女ふたりは寝台の
助けられながら、徐々に起き上がる。
ほんの少しだけ腹部に
「痛くないですか〜?」
「どうやら大丈夫そうだ」
「それはなにより〜」
「はいお水です〜。一人で飲めますか〜?」
「あ、ああ。ありがとう」
差し出された白磁製の
──コクッ。
ああ、これは良い。
月並みな表現をすれば、生き返るようだ。
と、そう一杯干したところで
顔を見せたのは、
「
色白の、
長くて真っすぐな黒髪からは、不可思議にも
目に宿された、その
そこには今、なにやら慌てたような表情が浮かべられ、
「き、あの……着る物を、着せてあげてください……」
確認が
もちろんそれは、手当てをする上での事ではあろうが、起き上がったせいで
「おやあ〜?」
「キュラ
「女同士だし〜、こんなの見慣れてるよね〜?」
「……
「あ〜、察し〜」
「え〜、うっそ〜?」
「そうなんだ〜、ふぅ〜ん?」
「……何を察したと言うんですか。怒りますよ」
「きゃ〜、
「
「か〜わい〜」
「……
女三人が
ここの君主は、配下から
まあまあ、その
その辺りが全ての元凶、とは言えるかもしれない。
そもそもこの少女は、本当に魔王なのか。
それも筋骨隆々の
そのような人物が想像される。
いったい
もちろん、これが替え玉として用意された別の
その疑いは
だいいちこれは、似せ者としてはちょっともう、いろいろ欠格するというか、人物像がそれらしく
だから逆に、
……なんとなく、
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