軌跡

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今日までずっと

誰かが歩いたその足跡を

取るに足らないことばかり 思いながら

多くの人が行き交う中に  自分だけの足の踏み場探して



かつて誰かが土に刻んだ小さな一歩

それがやがて道になり、轍となり、人と人とを繋ぐ

その上をいけば、目指す場所にきっと辿り着けると

そのまま戻れば、元来た場所へも必ず帰り着けると


けれど、そんな絶対が時に怯懦きょうだへ変わる

この道を少しでも外れたら、その一寸先は闇しかないと


あるいはそんな安穏が時に怠惰へ落ちる

歩みを止めて休んでいても、道標しるべを失くす恐れはないと


だからこそ、

脇目も振らずに一心に道を行く人がいる一方で

僕のように、

時に道を外れて、のんきに本など読む者もいる


そこにあるのは優劣の差ではなく指向の差

同じ道を行くならば歩みの違いでしかない


ともすれば、

道端の花を愛でるを佳しとして、

花があるのに気づかぬ者を哀れむ気持ちにもなるが

それもただ慰めでしかない

歩み続けられず、かといって

歩むこと自体をやめることもできない自分への――


確かに、その時間は尊いものだった

しかし、それをなぜ尊く思うのかを

僕は今日まで真剣に考えたことはなかった

僕のこの気持ちは、本当の形ではなかった


そのことに思い至った僕は、今ようやく心に決めた

僕の気持ちを本当の形にするためにこそ、自分自身の道を行くと


進むべき方角の見当をつけて、最初の一歩を踏み出す


その横に一人分の、僕より小さいがしっかりとした足跡が

まっすぐに、遠くまで続いていることに今になって気づく


僕の目指す場所とは少しだけ違う方向

でも、それはもう問題じゃない


まだ新しい軌跡は、怯懦ではなく、怠惰でもなく、僕に勇気をくれた



 

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