ムリヤ

______________________________________



遠い国の言葉で『ムリヤ』と名付けられた

世界にたったひとつの、美しい飛行機

その翼が飛ぶのを目にするとき、人は

まさしく夢を見ているような顔になる


なぜってその美しさもさることながら

目の当たりにしてさえ信じられぬほど

なにもかも、桁はずれに大きいからだ

夢うつつのその姿に心奪われるからだ


そして夢から覚めやらぬ顔でこう思う

「どうしてこんなにも大きいのか」と


聞くところによれば、かつて世界を二分した超大国の片隅で『夢』が生まれたのは、

人々が熱狂の中、空の高みのその先を目指した時代の、その終わり間際のことらしい

巨大な翼は、青い空の遥か上、藍より青いそら征く船を乗せるためにこそ必要とされた


なるほど、その翼の大きさはそのまま当時を生きていた人々の夢の大きさなのだろう

だが飛び方を覚えてすぐに彼の地では国の名前が変わるほどの出来事が起きたという

そうして一つの時代が終わり、続くはずの『夢』の飛行もたった一度きりで終わった


それでも、たった一度だけれど立派に夢を運んで飛んだのだ

運ぶ夢を無くして見えても、『夢』の翼はまだ空にあるのだ


ならばきっと、夢はまだ翼の上に――


いつか誰かの夢を背負い高くまで飛んだ翼は

いまは誰かに夢を分け与えながら飛んでいる


その生え際に、かつての名残を残して
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る