バスの来ないバス停

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とある山奥の村はずれ

この頃は人気ひとけを無くしたその場所に

まるで置き忘れられたみたいに

ひとつのバス停が

ぽつんと 立ち尽くしてる


名前も消えかけて

そこにバスが停まらなくなってから

いったい どれだけ月日が経ったのか

きっと誰に聞いてもわからない

そんな場所


そんな場所にあるバス停を

それでも覚えてる人はいて

そういう人のことを

物言わぬバス停だって

ちゃんと 覚えてる


例えば

毎朝決まった時間のバスに乗り

山の麓の学校に通ってた

あの 女の子


例えば

週に一度だけ

町の小さな診療所から 村のお年寄りを訪ねていた

あの お医者さん


今はもう 

こことは違う時間の中を生きる人たち

バス停が垣間見たのは

彼らが紡いだ生涯の そのほんの一片ひとひらに過ぎなくて

これから紡がれていく未来を 知る由もないけれど


もしそこに『こころ』があったなら

それを寂しく思うのかな

それとも――、


答えを内に秘め あの日のまま

そよ風ささやく森の、穏やかな木漏れ日に

ひっそりと 佇んでいる


そんな在り方












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