第二話

 今までどれだけの遺族や関係者と会い、説明をしてきたことか。

 慣れと言ってはいけないがシバは毎回伝える際にはそのままの事実をしっかり伝える、それが警察の役割、当たり前だと。


 孝明、奈美子、円原。3人ともアリバイもあり、穂波が死んだことに関係はなかった。


 彼らはなんで娘が、婚約者がこうなったのかわからない。


「穂波さんは何者かによって殺されました。他殺ではありません」

「……くっ……」

 見た目からして他殺であることはもうわかっている。


「なんでっ、穂波がっ……大事に大事に育ててきた娘がっ。誰が殺したんだ!」

 孝明は目が血走っている。そりゃ誰かに殺された、辛い事実である。


「結婚しても……なかなか子供が授からなくて十年目でようやくできた子なの。体外受精もして、本当にお金もかかって……」

 奈美子がそういう。さぞかしたいそうな箱入り娘だったのであろう。

 それが何者かによって殺される、辛い事実である。


「穂波さんは本当に美しくて優しい……女性でした。誰かに恨まれることなんて……」

 円原も涙する。


「……友達にも恵まれ、婚約者もいて、欲しいものも何不自由もなく……人に恨まれる要素だなんてないの、自慢もする子でもない、人を分け隔てない、いい子でしたの」

 シバたちもわかっていた。誰も彼女を悪くいうものはいなかった。


「本当に本当に大事に大事に育てて……っ」

 奈美子は床に突っ伏した。


「……」

 シバは帆奈を見る。帆奈は目で何かを訴える。


「あと他殺ではないことも先ほどわかりまして」

「えっ……」

「最初は他殺の線が強く、一緒にいた方に事情聴取もしまして」

「一緒にいた……お友達でしたっけ」

 シバは首を振るか迷った。


「お友達、のようですがね。初対面のようで」

「……初対面……私たちは娘の友達はほとんど把握しています。知らない人と会う時はどういう人か教えてもらい、場合によっては妻が同行して……まぁ大抵その時限りが多く」

 これはたいそう箱入り娘だ、シバは思った。自分も友達と遊ぶ際に親がついてきたら躊躇してしまう。


「もう穂波さんも29歳ですよね」

「ええ」

「職場の仲間……と言ってもあなた方の仕事場で経理をしていたからいないか」

「まぁ、そうです。そのほうが安全ですから」


 穂波は高校卒業後から両親の経営する書店で店員と経理をしていた。家もすぐ近く、常に家族のもとにいた。


「安全ねぇ……」

 シバは口をモゾモゾする。


「本当に大事に大事に育ててきたのです。だからこそ……大事に大事に守らなくてはいけなかったのよ……」

「私は長男でしてね、他の兄弟とは違って子供がなかなかできずプレッシャーで。親戚の集まりでは行くたび行くたびに子供はまだかと言われ……何度も流産死産を繰り返していた妻の体は、心は限界でした。その中でようやく生まれた娘。本当は男の子だったら尚更よかったのですが……」

 孝明がそう言うと奈美子は大きく泣き叫ぶ。円原が背中を摩っていた。


「だからと言って……度が過ぎやしませんか。友達や職場を自分たちの中で囲って」

「冬月」

 シバはつい思ってることを口にしてしまったがすぐ帆奈に止められた。


 孝明はそのシバの言葉に目を見開く。

「……そうするしかなかった。娘は私たちの生きがい、宝」


 シバはもっといろんなことを言いたかった。しかしこれ以上言うものではない。


「失礼しました……お二人は穂波さんの交友関係は把握してると」

「ええ」

「趣味とか……」

「読書、それくらいしか」

「……スマートフォンとかは中をご覧になっていましたか?」

「……流石にそこまでは」

 と言うとシバはなるほど……と。

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