過去の事件13 伝えるべき事実、霊安室にて
第一話
霊安室。
そこはどことなく生きているものがいる場所とはかけ離れている空気が漂う。
普段は飄々とし、ビビリではない冬月シバでさえも苦手な場所の一つのようだ。
そう好き好んで(誰もそんな人はいないだろうが)いられる場所ではない。
シバはバディの帆奈と共に霊安室に向かう。もちろん帆奈も開かない顔をしているがそんな顔をしててはいけないと自分の頬を叩いた。少し寝不足なところもあるようだ。
同じく寝不足のシバも手で隠さずあくびをするものだから帆奈に脇腹を小突かれて変な声が出てしまう。
そして静まり返る廊下で反響してしまいなおさら場違いだ、と帆奈に怒られる。
「お前が脇腹を……」
小声で反論する。
「シャキッとしないと。今からご遺族とお会いして説明しなくてはいけないのよ」
「お前は俺が脇腹感じやすいこと知っててわざと脇腹狙ったのか」
「感じやすいとかそんなのは今ここでする話ではないっ、それに身なりをもっと正しく!」
帆奈に言われてシバは彼女の前で背筋を伸ばして体を向ける。
「自分で直しなさい。さて、行くわよ」
「はいはい」
シバはささっと適当にシャツを入れてネクタイをくいっとしめただけだがだらしないよりかはいい、と帆奈に続いて個室に入っていく。
そこには泣き崩れている初老の夫婦、30代くらいの男性がいた。そしてその3人の目の前には簡易ベッド。何かが布に包まれ、奥には花も手向けられている。
独特な匂いにその花から放たれる匂い、ますます独特な臭いを生み出している。
中にはうまくやっているところもあるようだがこの病院の施設がいけないのか、花屋がよくないのかこの独特な臭いの配合は正しく独特だ、とシバはいつも思っている。
「この度はご愁傷様でした」
帆奈がそう伝えるとシバも頭を下げる。初老の男性はまだ幾分か余力があるようで少し顔を上げて再び頭を下げた。
「刑事さんですか」
「はい……えっと穂波さんの」
「穂波の父であります孝明と、妻の奈美子と穂波の婚約者の円原くん……」
奈美子はもう泣きじゃくっているが円原も孝明と同様なんとか気丈に振る舞っている。
奈美子の泣きじゃくる姿で帆奈は胸が痛む。
「今回穂波さんの現場を担当しました。班長の……冬月に変わります」
と帆奈は後ろに下がり、シバは俺? みたいな顔をしつつも前に出て
「この度はご愁傷様でした。冬月と申します」
と、名刺を渡す。孝明はそれを受け取り頭を下げる。
「……娘はなんでこのような」
シバはチラッと簡易ベッドに横たわるものを見た。この布の下には穂波という女性が亡くなり、横になっているのだ。
「僕たちも長い時間穂波に会えず……しかも事情聴取までされて……心身ともにボロボロです」
円原も寝不足のようだ。とりあえずここにいるものと他の関係者などの取り調べをしたが全員無関係であった。
「しかも顔だけは見せていただいて……その下はまだ見てないのです……」
シバは遺体に手を合わせて顔の白い布を取った。青白い女性の顔。メイクは拭き取られていたが顔立ちもはっきりしており、なんとなく孝明に似ているようだがシバだけでなく多くのものは穂波を美人の分類にふるいわけるであろう。
顔に再び布をかけて孝明の方を見たシバ。
スーツを着た孝明、身なりもしっかりしている円原に奈美子。
名家のものであることは調べはついている。その家庭に生まれた穂波は一人娘でこれまた名家の円原の長男と結婚も決まっていた。
政略結婚でもお見合いでもない、二人は大学のサークルで出会った正真正銘の恋愛結婚だと円原は語っていたと言う調書をシバは読んでフウン、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます