第三話

シバはここに来る前に事件の真相が判明した。

あくまでも今回は事件、である。


被害者である穂波はとあるビジネスホテルで初対面同士の30代男性会社員と共に入った。予約したのは男性会社員、A。


とあるネットサイトで約束をして落ち合ったと言う。


そのネットサイトは趣向が同じもの同士の集まり。


趣向というものは……SMプレイであった。


穂波は普段は穏やかでお淑やかな女性であったのだが本を通じて自分では体験体感したことのないことを頭の中で思い浮かべていた。


特に彼女がハマってしまったのはアンダーグラウンドな世界。

性にまつわるものを特に。


初めての経験は円原であったが28歳にして初めての経験はとてつもなく本の中の世界とはかけ離れてつまらなかった。


本の中ではとてつもなくアブノーマルな世界を味わっていた穂波は物足りなさを感じていた。


親のためにもそつなく交際は進み、結婚の話まで進む。しかしそれでいいのか、と。


そしてふとネットで見たアブノーマルな趣向が趣味な人たちの集まりの掲示板を見た穂波は結婚を前にと初めて利用した。


相手のAは通な男でかなりのドSだった。Aは初めてである、と言った穂波に対して手加減はしたがエスカレートしていく穂波の要求にAも普段のようにプレイをしてしまったのだ。


そして……


気づくと穂波は生き絶えていたそうだ。



Aは一度その場から離れたがニュースになり自主をした。


「殺すつもりはなかった」

とプレイ中の行為をスマートフォンで録画していたそうだ。

何度か応急処置をしたのだがどうにもならなかったと。


その映像を見て殺意はないというのはわかったのだが、死体遺棄であることは間違い無く、Aは逮捕された。



穂波の首から下を遺族に見せるのに躊躇したのも全身ロープで締められた跡、ムチの跡。


そしてこの事実を遺族たちに伝えるのは憚られる。


しかし事実を伝える義務はシバたちにある。だがいずれかはニュースで公になる。それを前に伝えなくてはいけない。


「……うちの娘は本当に大切に大切に……」

孝明は泣き崩れた。


「穂波っ!!」

奈美子は娘の名前を連呼して泣くばかり。


円原は泣き崩れる親たちに困り果てていた。


静まり返ったこの霊安室に泣き声が響き渡る。これは今日だけには限らない。


しかし事実を伝えればこれ以上のものになるだろう。



だがそれを生んだのは両親たちにも原因がある。



「刑事さん、なにが……穂波さんに……」

円原もきっと穂波の苦しみには辿り着かなかったのであろう。


「……本当はこのことはご家族にお話しするものですがいずれかはわかります」

「僕も家族のようなものです! 穂波さんの婚約者ですから!」

「……そうか、それなら家族として、事実を受け止めてください。そして穂波さんのことは決して責めないでください」

「……責める? そんなこと、彼女には落ち度はない!!!!」

円原の目は強かった。



シバはそうか、と。帆奈をもういちどみた。彼女は頷いた。



「……ではお話しします」





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