第三話

 須藤はまだパトカーが残っているのに気づいた。


「刑事さんは僕を逮捕しようと最初からここに来たんですか?」

「二人目の「オニ」の件ではまだお前の名前は捜査に上がっていなかったが、三人目の被害者がお前の親で、息子の名前が「才二」って言うから……まさかとは思ったが。決め手は……二人目のライターの愛人が僕の知り合いでね。その人がライターから手帳を預かっていて……その中にお前の名前が載っていた。それにはやく気づけば子供は殺されなかったのだろう……悔しい」


 須藤はまだ夕日を見ていた。


「晴海と会った時と同じ景色だ」

「捕まる前に過去に浸ってるのか」

「本当は通報した後、警察が来る前に……ここで晴海を抱いて飛び降りて死のうとした。……そしたら彼女からお腹に子供がいると、告白された。……僕との子供が」


 須藤は沈みゆく夕日を見て泣き出した。


「彼女には申し訳ないことをした……殺した後に泣いてた彼女を抱きしめると、体が震えていた。彼女はただ僕に言われるがままに殺したんだ。……どうか許してやってくれ。僕だけ……僕だけ……逮捕してくれ!!!」


 シバはタバコの吸殻を携帯灰皿に入れ、膝から崩れ落ちて懇願する須藤を見下ろす。


「馬鹿か。だったら彼女が連れて行かれる前に自首しろ。俺に迫られなかったら逃げる気でいたのか?そっから飛び降りてさ。彼女が連れてかれてから、ずっとこの辺りにウロウロしてさ。飛び降りて死ねば、恋人が捕まってショックを受けて死んだということになるもんな。でもできなかった」


 シバに追い詰められて、須藤は咄嗟に柵を越えた。


「あの女はただの捨て駒だ。性処理にも持って来いだったさ! 従順で素直で……なんでも鵜呑みにする女だった。僕に利用されているのに……。僕は彼女にちっとも愛情なったのに」


 笑ってるのか泣いてるのか、須藤の表情は壊れていた。


「やっぱ男と女、情を持つとだめだねぇ。俺も気をつけないとなー、あとは……下を見ろ」


 シバが須藤にそう促すと、崖の下にはネットが張ってあり、下にはさらに大きなクッションが用意され、パトカーが数台止まっていた。そこには瀧本がタバコをふかして見上げていた。


「あああああああああああっ!!!!!」

 と須藤は叫んだところをシバに引っ張られ取り押さえられた。


「自分で人を殺せないし、自分のことも殺せないんだな。このバカが」

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