第四話

「ほんとバカね、その犯人。しかも数年後には死刑執行。当たり前か。でもあの女性も出産したあと須藤のことを思いながら亡くなったのもしんどい話ね、利用されていたのに」


 と、数年前にシバが須藤を追い込んだ高台の上でとある女性ににその事件の話をした。


 すっかり高台は恋人の聖地になり、飛び降りを防ぐために立て看板の設置や見回りが増員されて自殺するものがほぼ居なくなったらしい。


「いじめられたら自分で仕返しすれば良かったのに」

「あ、明里もそう思う? 俺も自分でやり返すタイプ」

「やっぱり私たち気が合う! でも中にはそれができない人がいるのも事実だけどね」


 としんみりしたところに……あの夕日。シバの腕に明里がしがみついてきた。


「ところで今日、ここに来てなんの話だったの?恋人の聖地で……」

「えっと……」


 実はシバが複数いる愛人の一人である明里と別れようと思って連れてきたのだが……。


 タイミング良いのか悪いのかあの綺麗な夕日が。

 隣の明里がシバの腕をさらにギュウッとしがみつく。


「夕日、綺麗ね」

「あ、ああ」

「シバは他に女がいてもいいよ。私はあなたの愛人三号……四号? いえ、いつか本妻でもいいわよ。あ、後妻になるのかしら」


 なんか徐々に柵の方に近付いてますけど……としがみつく腕もさらにキツくなる。シバはその腕を振り解き、


「あああああああっ! これからもよろしくなっ!!」

 とシバは明里に抱きついた。この子も自分と別れてくれないかと諦めた。


 目の前の看板には

『立ち止まって、家族が泣いている』


 と、書いてある。……幼馴染のまさ子の顔が浮かぶ……。何故か他の愛人たちや過去の女たちの顔も。


 そして抱きついた明里は耳元で囁いた。

「じゃあ、これからホテル行こう」

「は、はあい……」


 シバは沈みゆく夕焼けを背にあの男と変わらぬクズな野郎だと思い知ったのであった。




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