過去の事件6 ある女子大生の死

第一話

 とあるホテルで遺体が見つかった。いわゆるラブホテル、だが。


 着衣は乱れておらず、首を締められた以外は特に外傷はなかった。抵抗する跡を除いては。必死にもがいたのであろう。爪にも皮膚の組織もあり、もし犯人が自分はやってないと言っても言い逃れはできないだろう。


 凶器はベッドの下に置いてあったマフラーであろう。見た感じ手編みだろうか。彼女の手作りか。こんな柔らかくてふわふわなもので首を絞められるのか? 


 遺体の若い女性の髪の毛はとても綺麗な編み込みがされていた。自分でやったのか。とても器用であり等間隔に綺麗な模様である。


 しかし彼女の薄く開いたこの瞳は最後、何を見たのだろう。光を失った視界、シバはそっとまぶたをシバは閉じてやった。その口からは何も発することができない。

 唇には赤いリップ。シバたちができるのは彼女の残した何か、周りの状況から得るのだ。

 絶対に犯人を見つけ、彼女に報告したい。……しかしその耳はもう何も聞くことができない。


 名古屋の大学に通っている綺麗なお嬢さんではないか。とシバは少し心が浮つく。


 遺族である両親に聞くと、初めて男性とデートをするからと朝早くから洗面所で髪の毛を編み込みをし、お化粧をして綺麗な服と靴で出かけたそうだ。とても機嫌よく明るい笑顔だったと母親は泣いて語る。とても広いリビング。写真もたくさん飾ってある。両親の愛を感じた。そんな元に生まれ育った彼女はとても幸せな人生であったのだろう。


 しかしあんな姿にされるためにしたんじゃない、彼女は。


 彼女の交際相手である男は目撃証言と指紋などが一致し、特定はできた。前科はない。


 しかし逃亡をし、見つかった公園で俺は悪くない! と叫んで駆けつけた警官を突き飛ばしたそうだ。


 リビングに飾ってある彼女の写真。とても美しく良い笑顔だ。彼女はあの男に会わずに自分と会ってたら、とシバは思う。冗談であるが。


「先輩、見過ぎっすよ」

 隣にいた茜部に言われて我に返った。





 シバたちが捜査車両に乗り込んだ頃、あの女性を殺した男が近くのとあるキャンプ施設にいると無線が入る。なんとも早い。そこまで遠く逃げられなかったのか。


 駆けつけると男はキャンプ場内を走り回って逃げている。またもや自分は悪くないというなら捕まって無実を証明すれば良いのだが。


 そして馬鹿なことに吊り橋の上で靴が引っかかり、身動きが取れなくなっているところをシバは追い込んだ。


「俺は悪くないっ!!!」


 彼が叫ぶとグラグラ揺れる。シバもわざと揺れるように橋を渡る。

 ドラマで崖に犯人を追い込むという設定をよく目にするが、それを一度やって見たいと思ったシバの先輩は、実際にしたところ犯人が崖から落ちて死んだ。


 シバは少しずつ近づいた。下は流れの速い川。高さはそこまでではないが、落ちたら助からないだろう。


「一緒に犯行現場のホテルに入った記録残ってるぞ! 指紋も残ってるぞ! 皮膚も爪に残ってる! 逃げられないぞ。それでも違うと言うのか?」

 とシバは橋を揺らす。古すぎてものすごく揺れる。男の足はさらに落ちそうになる。


「すいませええええん、嘘言いましたから、助けてくださぁいいいいいいっ。事実をはなしますからぁあああああ」


 面白いほどに自白したが、奴は吊り橋の揺れに恐怖に慄き、大量に尿を漏らした。


 そして泣き崩れた。


 

 

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