第14話 事件のあらまし11
「すごく幸せだった。研究も認められてかわいい奥さんもできて順風満帆だったのに……研究の論文も上司の成果にさせられて、婚約者も奪われて……俺は居た堪れなくなって退職した」
鈴菜は涙を大量に流している。が途中で薬が抜けたのか腕に注射を打つ。もう手慣れている。麻美はそれを手助けしている。
「アホだろ、酒と薬物に溺れてしまうだなんて。仕事を失って恋人も失ってそれだけでここまで堕落するなんて。
俺は児童養護施設で育った可哀想な子供でね、里親も最悪だった。……爆破マニアってのはアレだけどな、真面目に仕事をして研究に命をかけ、僕のことを心から愛してくれたって人が……なぁ、裏切られた気持ちわかるか? 刑事さん」
完全に薬で目の焦点が合わない。シバは笑った。
「……わかんねぇな、俺も両親共に死んでな、児童養護施設育ちだ。同じく施設では虐げられた」
シバは鈴菜に拳銃を突きつける。鈴菜はガクガク震える。その震えは薬物のものか、拳銃を突きつけられたからか。麻美は鈴菜の腕を握る。
「……麻美さん、まさか」
麻美は頷いた。
「少し乱暴だけど心は優しい人なの、親身に話を聞いてくれて心の底から怒ってくれて……」
「麻美さんっ、よせ。そいつは……そいつは……」
麻美は微笑んだ。シバは気づいた。彼女のお腹の膨らみを。
「……鈴菜、お前の元婚約者も妊娠していたぞ。赤ん坊は死んだが」
「まじか。上司との子じゃねぇのか?」
シバは顔を歪めた。鈴菜の婚約者であった菅生の爆薬管理の垂れ込みをした男は不倫相手の上司だったのかと。
「お腹に子供いるのを知ってでも……やったんだろ、麻美さんと同様に!!!」
シバは拳銃を持つ手を震わせる。
「おいおい、なんだよなんだよ。怖いなぁ刑事さん、あんたも何かやらかしてるんじゃないか、その目つきは相当やばいよぉ」
鈴菜は高々に笑う。麻美も微笑む。シバは彼女の腕を見た。案の定彼女も薬物を……。
「あぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁあぁあああああ!!」
油断した隙に奇声を上げる鈴菜に押し倒され持っていた拳銃は部屋の隅に。と同時に部屋の外から強力な光が。
扉から茜部と機動隊が数人。シバはほっとした。
「……鈴菜、残念だったな。大フィナーレはお前の逮捕だ。茜部、奥の台所に人質3人と爆弾がある」
だが鈴菜は微動だにしない。さらに笑い出す。
「いやぁー超大フィナーレだねぇ……もっともっと忘れられない……」
シバは体を起こした。鈴菜の手には何かスイッチがあるのが見えた。
「伏せろ!!!!!」
茜部が大きな声を出す。そしてシバは
「麻美さん!!!!!!!!」
麻美は微笑んでいたが鈴菜が彼女を押し倒し体で麻美を覆いかぶさった。
『かちっ』
その音が聞こえ爆発音がしたところまでがシバの記憶であった。
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