第13話 事件のあらまし10
シバは花屋の前に立つ。どこからか入らないだろうかとぐるっと回ってみる。通行人もまだら。ここにいるのかどうかわからないが今ここで爆発が起きるとなるとかなり危険ではある。
茜部が遠くから見ているのはわかっているが。すぐにでも他の刑事も来るだろう。シバは花屋のシャッターを見ると張り紙に気づく。とても癖の強い字で
「しばらく旅行のためお休みします」
と書いてある。
麻美の失踪届を出したのにも関わらず旅行という理由はおかしいし、その強い癖字はどこかで見覚えがあったとシバは思い出した。
菅生の元に行った際に、薬品管理のファイルを見た時、過去の分も少し見ていたのだが似たような癖字を見たことがあったのだ。
それはまだ鈴菜があの製薬会社にいた時期のものである。
「鈴菜の字だ」
たった少ししか見ていなかったのだがなんという記憶力だろうか。シバは覚えていたのだ。
「……奴はこの店に来た、いや、まだいる」
昨日夕立があったためこの張り紙も濡れているはずである。馴染みが全く無いのだ。
シバは改めて店の周りを歩いて窓やドアが開いていないか確認する。
すると一つの窓が空いていたのだ。入れなくは無い、とシバは体を捻じ込ませて窓から入るとそこは花屋の中。
匂いがなんとも言えないのかシバは腕で鼻を抑える。
「1日だけでこんな匂いが……」
きっと手入れされて無いであろう。張り紙はごく最近で花屋の中は何日か経った匂いである。
シバは後ろから聞こえてきた足跡に振り返る。
なんとそこには麻美がいたのだ。数ヶ月ぶりの再会である。目の前にいる麻美は狼狽えている。心なしかやつれている。シバもびっくりしたが麻美が生きていることに少しほっとして少しずつ冷静を取り戻した。息を整え他に人がいないか周りを見渡す。
どうやらいないようである。
「麻美さん、久しぶり。今あなたに捜索届が出ているのは知っているか……」
「お久しぶりです。……そうなんですね……。あ、あの……よかったら家にあがりませんか」
「いや、ここで話が聞きたい。あのとき俺ら警察がしっかりあなたの話をもっと棍詰めて、何か手がかりを出していたらあなたは犯罪に加担することはなかった。SNSの件は調べている、闇サイトの書き込みのこともだ」
麻美はそのことを聞いて顔をハッとさせた。そして頷いた。
「……お入りください、店の上に家があります」
「わかった。他の家族は。彼らも捜査願いを数日して連絡がついていない」
「……」
麻美は何も言わず家につながる階段を登っていき、シバはついていく。
「……!!」
シバは何かに気づいた。一瞬爆薬の匂い。彼は勘づいた。こっそりスマホで茜部にスマホにて連絡しようとした。
「そのスマホ、置いてください」
気づかれたかと冷や汗をかき、シバは階段の途中にスマホを置いた。
「置いた。一切連絡していない」
麻美はじっと見てさらに進んだ。
案内された部屋の襖を開けると布団が敷いてあった。爆薬とすこし人間の……性交した後の独特な匂い。そして麻薬の匂い。
シバは背後に気配を感じた。
「誰だ、お前は!!!!」
「うっ!!」
シバは背後から来た全裸の男を背負い投げしようとしたら首元にナイフがあることに気づいた。
「俺を投げようとしたらこのナイフがお前の首をカッ切るぜ」
シバは両手を上げてゆっくりしゃがみ込んだ。そしてその両手は男に縛り上げられて敷いてあった布団の上に転がされた。性交後の匂いはここからである。ティッシュが散乱しておりそばにはガクガクと震える麻美がいた。
シバを襲った男は鈴菜であった。別の捜査員から薬物取引があり大麻常習犯であることもわかっている。研修員の社員証に比べ眼球が大きく見開き、よだれをたらし、全裸であった。
「てめぇが連続爆破魔の鈴菜!!! 掲示板の書き込みの依頼の数人を巻き込み怪我をさせた……」
「そうだよ、なんでここがわかったんだよ」
「勘だよ、勘……それよりもそのナイフおろせ。俺は拳銃もある。麻美さん……それよりも他のご家族は?」
麻美はガクガクまだ震えている。よく見ると彼女は下着を身に付けてないのか白いシャツは透けて見えていた。と同時に奥から音がした。
シバは鈴菜たちを見ながらその音のする方へ移動して見てみると台所の奥に3人ほどの大人たちが繋がれていた。麻美の夫と同居していたその親だ。しかしそれは異常な光景だとシバはすぐ気づいた。彼らの真ん中に爆弾が置いてあったのだ。
爆弾魔の使用していたと思われるものとほぼ一致する、と目視出来た。3人はウーウーと唸りながら助けを求めるが、やつれきっていることから長時間拘束されているようだ。口には紐が縛られており、涎と鼻水と涙がダラダラと流れている。
シバは麻美がこの3人から受けてきたモラハラのことを考えるとバチが当たったと思ったようにも思えたがいくらなんでもこれは行き過ぎだと震えた。
「だってさ、麻美がこの3人消してくれって言うから。俺の爆破祭りの最後の大フィナーレに相応しい……」
鈴菜は流石に下着を履きシバに笑いながらナイフを振りかざす。
「爆破祭り? 大フィナーレだと……? ふざけんな。なんでこんなことを」
「ふざけてないさ。本当は俺は1人で死のうかと思ったんだ。会社の上司が俺の彼女と……婚約者と不倫しててな。絶望したんだ」
「えっ」
シバは絶句した。
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