第6話 事件のあらまし4
麻美の勤めている花屋に向かったシバたち。シバだけ降りて花屋に入る。ネクタイは緩めて中を見ると麻美はいない。そこには長身の中年の男性と老年の女性と男性。客ではなくて三人とも店員のようだ。
腰元のベルトに作業用の道具がついていた。
「いらっしゃいませ、何か御用ですか」
老年女性の店員に頭から足の先までジロジロ見られるシバ。流石にまだ夕方前なのに上下スーツ、緩んではいるがネクタイ、だが頭はボサボサ顎髭、あやしい。
いかにも花になんて用はないだろうという格好である。
「あ、あのぉ……そのー」
シバはそんなには何は詳しくはない。
「どなたかにプレゼントですか? それとも」
中年男性店員に尋ねられ、プレゼント……と思い浮かぶのは恋人のまさ子を思い浮かべる。そう、彼には高校生の時から付き合っている幼馴染のまさ子がいるのだ。
同い年で彼女は美容部員としてトップを走り抜けているビジネスウーマンである。
「そういえば……恋人が仕事で昇進したんですよ。お祝いの花を」
「じゃあお見立てしますね」
シバは店内をうろうろするが麻美は帰ってこない。すると手持ち無沙汰の老年の女性店員がやってきて
「彼女さんはおいくつなのー?」
と絡んでくる。厚かましい、と思いながらもシバはにこっと笑って
「30です。もうすぐ31っすね」
というと中年女性店員は顔を歪めた。と、外で何かパンという音がしたが店の中の音楽が少し大きく気のせいかと思って外を見ようとする。
「あぁ、結婚しないの? 早く子供作って産まないと。それにキャリアばかり頭にあって結婚も出産も遅くしちゃってーそろそろ子供欲しいわあってなったときに子供ができない、不妊治療にいくらかかると思ってるの。うちの嫁さんも全く妊娠しないのよ、まだ20代なのに、うちの家系には不妊家系じゃないのに。嫁さんのところはお母様が36で産んだから不妊の血筋があるのよ……」
と耳打ちしてくる。はぁ、とシバは苦笑いしつつも自分が結婚をまさ子とはしないのは彼女の仕事もそうだが、シバ自身も仕事の多忙さと下半身事情の忙しさもあいまってるだなんて口が裂けても言えないと思いながらも中年男性があっという間に黄色の花束を予算内に作り上げてきたのだ。
「すっげぇ……ありがとうございます」
「いえ、あ……こちらのかすみ草はサービスしときましたから。彼女さんも喜ばれるでしょうね」
「センキューっす」
お金を支払いシバは店を出た。なるべく長い時間店内に居座ったつもりだが麻美は帰ってこなかった。
そして花束を持って戻ってきたシバを茜部は驚き、彼に渡した。
「お前家に持って帰れ」
「え、なんすか……これは。一応受け取っておきます」
まさ子にプレゼントすると言うのは口実であった。適当に考えただけである。
「帰るぞ」
「よかったすか? さっきの話聞いてたらモラハラ案件でしたね……なかなか立証が難しいっすよ。泣き寝入りじゃないっすか」
「まぁな……まぁ姑のほうはステレオタイプの強烈キャラ、夫はいわゆる見た目はいいカッコしてるモラハラ夫だった。あそこに麻美さんがきたら態度を伺えたのだが、自分の母親が聞こえるかのように自分の妻の不妊に対することを言う行為をスルーしてたところからあいつは親に支配されているタイプのモラハラ夫、地獄だな」
「さすがシバさん、数分の入店でそこまで観察されて」
「ありがとう、そこまで褒めてくれるのは茜部ちゃんだけだよ」
「いえ……」
茜部は目が泳ぐ。シバが自分の上司になりいろいろと教え込まれており、とにかくシバのことは細かいことでもいいから褒め上げろというのも一つである。
「麻美さんを待ちますか……」
「そうだな、待つか」
と2人は車内で待つ。
「で、どうだ、帆奈は」
「ま、またぁ……」
「帆奈と昨晩SEXしたか」
「な、なんすかっ!!!」
「毎日艶肌いいぞ」
「……し、し、しました……」
シバは茜部のほっぺを掴む。
「元気だなぁー。帆奈は部署移動してからなかなか会えないからなぁ。その間に茜部の拳銃管理かよ……はぁ……」
「……すいません」
「まぁあいつの管理は厳しいからな」
「たしかに……って!!!」
ピピピピピピピー
2人が小競り合いしている間に本部から連絡が入った。
『市役所四階にて爆発事故あり! 怪我人数名、避難活動中……』
「市役所だと! すぐ近くじゃないか!」
「そいやさっき空砲みたいな音が……て、救急車の音も聞こえます、急ぎましょう」
「あぁ、安全運転で最速で!」
シバは事件となると頭が切り替わる。麻美のモラハラの件に関してもだが爆発事故、そちらを優先した。
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