第88話 ドラゴンは細かい事が苦手。

「お主はメスじゃ、それに人化するなんぞもっての他じゃ! ならん!」

[そんなぁ~。 我らドラゴンの決意というのは、簡単には変えられないのです! ……考え直しては頂けませんか?]

「諦めるのじゃ!」

「「うんうん」」


 なんでか知らないが、ミケ達はピルムが俺達に従うのが面白くないようだ。

 まぁ、俺達はこれから戦いに行くのだし、戦うにしても移動するにしても、別に俺達だけで充分だしな……。


「ピルムも、そんなに重く考えるなよ。俺達はそういうつもりで助けてやったわけじゃないんだからさ」

[ですが……]


 こんな空の上、しかも目的である“ドラゴンの巣”を前に止まっている訳にはいかないので、俺達は島に向かうことにした。


 島は、その大部分が急な山岳地帯で、その山岳地帯の高地にドラゴンが棲んでいるらしい。

 島の端に僅かにある平地と、ゆるい斜面の所に龍人族が集落を作って暮らしていた。

 集落の中でも大きいところを見つけたので、そこに下りてみる。

 ピルムがついて来ちゃってるけど……、そのうちどっかに行くだろう。


 俺達が集落に下りると、ピルムも続いて下りて来てしまった。


「おい! あれはっ!!」

「ヒト族が、あの……手のつけられなかった大地のドラゴンを引き連れてきたぞ!」

「何者なんだ?」


 集落の龍人族から驚きの声が漏れ、周囲もざわついている。


「なに付いて来とるんじゃ!」

「「うんうん」」


 ミケがピルムをゲシゲシ足蹴にする。


[お許し下さい~。ドラゴンの決意なのです~!]

「ワケわからん事を言うな!」

[いた~い!]


「お、おい! 大地のドラゴンを足蹴に……」

「あれは、完全に手懐けている!」


 龍人族の皆さんが、勘違いしてる……。


 ちょっと聞きたい事がある、というと、1人の龍人がおずおずと出て来て、長老と呼ばれている龍人の元へ案内された。

 木で屋根や柱が組まれ、小枝やワラで壁を作ったバラック小屋のような家に長老はいた。

 小難しい話は任せるということで、俺だけ長老の家に入り、ミケ達は外で待つとのことだ。


「大地のドラゴンを従えるヒト族のお客人、何用ですかな?」


 うん、前半部分は誤解です。ついて来ちゃったんです。

 サリムドランについて聞きたいけど、まずは確認しておかないといけない事がある。


「まず、この間エンデランス王国にドラゴン15体を引き連れてきたのは、ここの奴か?」

「はて? 何の事ですかな? ヒト族の国にそのような事があったのですかな?」


 とぼけているのか? 本当に知らないのか? 後でもう一度聞くか。


「サリムドランについて聞きたいのだが。行方知れずなんだって?」

「大戦士サリムドランか……。彼は素晴らしい男で、我らの牽引者けんいんしゃであった」

「その男が何でいなくなったんだ?」

「……サリムドランには、ドラゴンの相棒がおった」


 龍人族のうち、能力の高い龍人はドラゴンを従える事ができる。

 と言っても、ドラゴンを力で屈服させるとかではなく、生まれたばかりや幼いドラゴンを育てて共に強くなるバディ、まさしく相棒になるのだそうだ。


「そのドラゴンは、珍しい黒色であった。言い伝えでは、黒いドラゴンは厄災やくさいを招くので何が何でも処分しろと言われていたが、卵を自分で温め、孵化ふかを見守っていた若きサリムドランはそれを聞かなかった」


 その時点で龍人族の頂点の力を持っていたサリムドランに、黒いドラゴンの処分を強く言える者はいなかったらしい。


「サリムドランは、常にそのドラゴンと共に過ごし、どのドラゴンよりも大きく育てて、心を通わせていた。」

「会話したりしてたのか?」

「はあ? 言葉を話すドラゴンなどおらんじゃろ。何を言っておる」


 ……いたんですけど? すぐ外にいるんですけど?


「だが、20年以上前か? 突然黒ドラゴンの様子が変わり、集落で暴れ回って、北に飛び去ってしまった。サリムドランはドラゴンを止める為に追いかけて行ったが、そのまま帰ってくることは無かった」


「ハウラケアノスは?」

「王か……。王がやってきたのは、サリムドランがいなくなって数年後だった。現れた時はサリムドランが帰って来たと思った。……だが、髪の色や角の特徴は一緒でも、体格や顔つき、声は別人じゃった。」

「角の特徴が一緒というのは龍人族にはよくあるのか?」

「いいや、実の親子の間でも無いし、兄弟にも無い。……そして――」


 その後ハウラケアノスは、エンデランス王国で捕まえた龍人から聞いた通り、集落を制圧、王を名乗り、魔王軍に与した。


「この島には“ハネ持ち”は多いのか?」

「いや、ハネ持ちはいたが、王がそのほとんどを連れて魔大陸へ行ってしまわれた。ワシもハネ持ちですぞ?」


 長老が背中を見せてきたが、翼は退化していた。年を重ねると退化するらしい。


「だから、あなたがさっき聞いてきたヒト族の国を襲った龍人は魔大陸の龍人でしょうな」

「そうか……、今ユロレンシア大陸に攻め込んでる連中もか?」

「また戦争をしておるのですか……。そうです、魔大陸の龍人でしょう」


 この島の龍人族は、悪さをしてないようだな。血の気が多い奴がいそうでもなかったしな。


 ガッダーン! バリッ! バサーン!

「ああ~!」「ぎゃー! な、なんだ!?」


 外から大きな音と騒ぐ声が聞こえてきた。

 敵襲か?

 急いで外に行くと、地面から土や岩のトゲが突き出し、家を壊していた。


「ミケ! どうした!? 何があった?」

「い、いやのぅ。こ奴がダンジョンのドラゴンみたいにトゲを出せるというもんで、やらせてみたら……」


 ミケがピルムを指差して言う。


「こうなったと?」

「う、うむ。じゃが! やるならちゃんと何もないところを狙わんか! 他人の家を巻き込みおって、この馬鹿もの!」

[そ、そんな細かい事できませんよ~! 私ドラゴンですよ? やれと言われたからやったのに~]

「ぴるむー! めっ!」

「片付けましょう? あなたもよ、ピルム!」

[は、はい]


「こ、この少女達がドラゴンにやらせたのか?」

「ドラゴンを手懐け、技の指示もできるとは……恐ろしい!」

「名前までつけて、片付けまでさせるとは、完璧な使役! 流石だ」


 ピルムの声が鳴き声にしか聞こえていない龍人達に、また誤解が広まっていく……。


「と、とにかく片付けて、直すのも手伝うぞ」


 龍人族が魔王軍に加担している事は確定したな。全ての龍人族というわけでは無いようだが、魔大陸へ行った連中が悪さしてるんだな。

 よし、ここを早く片付けて魔大陸へ行こう!


 ガタガタッ! バリッ! バターン!


「あー! ピルム! 尻尾を振りまわさないで!」

「ぴるむ! めっ!」

「貴様~! わざとやっておるじゃろ?」

[違いますよ~! 私ドラゴンなんです! 細かい事苦手なんです~!]


 …………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る