第3章 カストポルクス、真の敵。

第87話 まずは“ドラゴンの巣”。

「アニカとアニタのお父さんの仇を取るぞー!」

 と、意気込んたのは既に夕方。


 相変わらず、マッカラン大公国の公都にある高級宿に宿泊した翌朝。

 支配人に礼を言って宿を引き払い、宮殿にいる大公キースに旅立ちの挨拶をしに行く。


 キースもだが、メイドさんも寂しがってくれて、涙ぐんでさえくれた。

 帰り際には、俺達にそっとお菓子を包んでくれた。……いい人!



「まずは、“ドラゴンの巣”に行ってみようか」

「うむ」

「大丈夫ですか? ドラゴンがいっぱいなんですよね?」

「ドラゴンのおうちーどんなおうっちー♪」


 公都から北西に飛ぶと、大公国と龍人族の領土の境界で、互いに陣を張って小規模な戦闘が続いている。

 キース側に領土拡大の野心はないものの、龍人族はそうではないので、小競り合いが絶えないらしい。


 更に進むと、海に出た。そのまま進めば“ドラゴンの巣”はすぐだ。

 上空から見た“ドラゴンの巣”の島の形は、いかにもユロレンシア大陸から地殻変動で切り離されたという形。


「あー! お城に来たのと同じにバサバサきたよ~」

「おー、今度はドラゴンだけじゃな……5体か?」

「そうですね。この前のよりもちょっと大きいかもしれないですね」

「見えた! 俺にも見えた。やっぱ俺達が目当てかな?」


 島に近づくと、俺達に向かってドラゴンが飛んできた。

 5体で、大きめのドラゴンを中心に隊列を組んで飛んできている。

 真ん中のドラゴンは、鱗がはっきりとした茶色。他の4体は、赤色や青色の鱗だが、薄い色だ。


[お前達! 侵入者共を食い破ってやれー!]

 ( グギァ! グルルロロロォォー! )

「「「「ギュエー!」」」」


「ん? 誰か、なんか言ったか?」

「いいや」「言ってません」「いわないよ~」


 何か言葉が聞こえた気がするな……。


[挟み込むぞー!]

(ギャウアー!)


「ほら! また聞こえた! 挟み込むって!」

「我にも聞こえたぞ!」

「「私も!」」


 みんなにも聞こえるってことは、俺の空耳じゃなくて、本当に誰かの声だってことだ。

 ――! あのドラゴンの? いや、まずは対処だ。


 ドラゴンは真ん中の大きいのを残して、2体ずつ左右に分かれて、本当に俺達を挟みにきた。


「挟み打ちを挟み打つぞ、俺班とミケ班でいくぞ!」

「おう!」「「はい!」」


 目配せで俺とアニカ、ミケとアニタ、近くで飛んでいた同士で別れて対応する。


[何!? 読まれていただと?]

 (ギェ!? ギョルルォ?)


 いいえ、聞こえていました。やっぱりコイツが喋ってるのか。


 ドラゴン4体を、俺達4人が1体ずつ受け持つ。

 エンデランス王都で15体のドラゴンを相手にしていたミケ達は、同じような戦い方をした。

 翼を傷つけたり、ダメージを与えて下に落とすのである。

 まともに当たるより格段にやり易いし、ドラゴンはバランスを崩すので、どちらにせよその後も有利に戦えるからだ。


「ほいっと! 《ストームブレード》」

「ほれっ 《フレイムブレード》」

「やぁー! 飛燕!!」

「た~! ブーメランすらっしゅ~!」


「「「「ギョエェェー!」」」」


 4体とも海に落ちていく。


[あー!! お前達ー!]

(ガー!! グギァー!)


「さて、後はお前だけだぞ?」


 4人で1体を取り囲む。


[おのれ~、小癪こしゃくな!]

(ギュア~、ゴリュルァ!)


 ドラゴンが力を溜めて、尻尾で薙ぎ払ってきた。

 だが、空中戦闘に慣れている俺達は難なく避ける。


「やーっ!」

「てや~!」


[ギョワ!]

(痛い!)


「《パラライズ》! ミケ! 思いっきりやっていいぞ!」

「うむっ! 《マルチプル・フレイムランス》!」


[ギョォオ~! グリュー! ギャー]

(いや~! 動けないー! ギャー)


 最後の1体も海に落ちていった。


「今のだけしゃべってたよな?」

「うむ。なんでじゃ? ニアよ?」


「はい。ドラゴンのうち、体が成長しただけでなく力も知能も付けた個体は、鳴き声だけでなく言葉として同族に命令したり、会話できるようになります。ユウトさん達がドラゴンの言葉が聞こえたのは【言語理解】のスキルがあるからですね」


「へぇ。じゃあ、今のドラゴンは知能が高い奴だったんだな……。あれ? でも、ダンジョンのドラゴンは喋らなかったぞ? アイツより強かったし、知能もあったんじゃないか?」


「あれは、ダンジョンモンスターだからですね。魔力によって生み出されたモンスターに知能はあっても、言葉は必要ないですからね……」

「そういうもんかぁ」


 ニアと話していると、アニカとアニタが俺をツンツンしてきた。


「ユウトさん、アレ」

「ねえねえ、あのドラゴンね、私達を呼んでるよ?」

「え? 何だ?」


 海に落ちたドラゴンが何か叫んでいる。


[助けてー! 私もこの子達も泳げないんですー!]

「……」

[お願いしますー! この子達だけでも助けて下さーい!]

「……泳げないなら、海の上で戦うな!」

[こんなに強いとは思わなかったんですー!]

「「「「はぁ?」」」」


 襲ってきたドラゴンに助けを求められるとは、意味不明だが……仕方ない。


「しゃーない! 助けるか。アニカ、傷を治してやろう」

「はい」


 俺とアニタで、溺れているドラゴン達に《フライ》をかけて引き揚げてから、傷を治してやる。

 敵に助けられた形になったドラゴン達はシュンとしている。


[私の弟や妹たちを助けて頂いて、ありがとうございます]

「お前の兄弟達だったのか」


 言葉を話すドラゴンは、兄弟達を島に帰して自分だけ残った。


[私達の方から襲ったにもかかわらず、助けて頂いたこのご恩。私の一生を持って代えさせて頂きます。何なりとわたくしめをお使い下さい]

「はぁ!? 助けてはやったが、そこまでの事じゃないだろ? 俺らの邪魔さえしなければいいって」 


[いえ、そういう訳には参りません。私に勝った方、しかも助けてまで頂いたからには、この身を貴方様に捧げます! 何なりとわたくしめをお使い下さい!]

「重いって!それに、お前を倒したのは俺じゃなくて、俺“たち”だ」


[ですが、お見受けしたところ、貴方様がこの群れの指導者では?]


 群れっ!? 群れ?


「ユウトよ。らちが明かん。我に任せよ」

「お、おう」

「貴様、名はあるのか?」

[私にはピルムという名があります。同族だけに通じる名です]


 おお! 名前なんてあったのか! ミケ、グッジョブ。


「よし、ではピルムよ、お主は雌か?」

[はい?]

「オスか? メスか?」

[め、メスですけど……]

「よし! ダメじゃ! どこかへ行け!」

「「うんうん」」


 アニカとアニタも頷いている。


[えっ……?]


 俺も「え?」


[そんなぁ~! もう少し強くなったら、人化できるようになりますからっ!]

「余計ならぬ!」

「「うんうん」」


「…………なんで?」

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