第86話 アニカ、アニタ、いよいよ仇討ちにいくぞ!

 戴冠式が終わって、俺はミケが捕まえた龍人に会って話を聞きたかったんだが、取り調べや雑務に追われているらしく、なかなか機会が取れない状態だった。

 なので、キースがまだ王都にいるうちに、ということでアムートをディステに連れていった。

 もちろんアムートを生みの親であるミーナと、叔母であるテレーゼに会わせるためだ。


「あ~~~~、ディスティリーニア様~~~~~~」


 ディステには、ミケ・アニカ・アニタも連れていった。

 なぜなら……アニタのお人形さんにスマホを忍ばせておけば、ローレッタがそっちに行くんじゃないか? と、思いついてしまったからである。


「お待ちになって~~~~~!」

「いや~~~~~、追い掛けてこないで~! お姉ちゃ~ん、ミケちゃ~ん、たすけてよ~」


 案の定、ローレッタがアニタを追いまわし、何で追いかけられているか分かっていないアニタが逃げ回っている。


「ミケ、お前の言う女子の匂いというのは、この状況でついちゃったんだ。解ってくれるか?」

「何か……すまなかったのう」


 それはさて置き、アムートとミーナ、テレーゼの対面はとても感動的だった。

 約40年ぶりの対面、ミーナにとっては何にも代え難い喜びだろう。

 アムートがミーナに、改めて俺を紹介してくれて、4人で抱き合った。

 ミケの雷を警戒していたが、流石にミーナやテレーゼに対しては撃てないよな。


「あ~~、ディスティリーニア様~~~! お待ちを~」


 名残惜しいが、ミーナが完全に回復し次第、王都に迎えると約束してアムートを連れて王都に戻った。

 ちなみに、ミーナに着けた面白アイマスク、ミーナが気に入って毎晩使っているそうだが、世話係が毎朝ビックリするそうだ。



 数日後には、「他国の者がいつまでも王城に出入りも出来ないでしょう」と言い、キース達が公都に戻ることになった。

 キースはアムートに、いつでも相談に乗ると約束を交わし、大公国についても段階的に縮小し、いずれは再び王国に編入する腹積もりのようだ。


「本当にいいのかい?」

「ええ、俺達も龍人に面会出来るまで公都に戻ろうと思ってたので」


 俺達も公都に戻るついでに、キースだけ一緒に転移することになった。

 キースを心配する臣下達を尻目に、キースは初めての転移に子供のように目を輝かせていた。



 公都に戻ってからの数日は、地道に汚名返上活動もとい、冒険者活動をしている。

 ギルドで変わった事と言えば、ゼンデルヴァルトが俺達の言った通り、謙虚になって他のCランクパーティーに入れてもらって、頑張っているらしい。

 クズ冒険者達も、事あるごとにミケやアニタから制裁を受けるので、クズから足を洗い、真っ当な冒険者になっていきつつある。

 “大公様大好き”は、テテの加入後、それまで以上の成果を上げている。




「これは塩コショウだけでも充分美味しいのう」

「だけど、煮ると硬くなりすぎるんだよなー?」

「そうですね。この肉は、軽く焼き色がつくぐらいの焼き加減が一番いいみたいですね。」

「おいし~ね!」


 俺達は、依頼をこなしつつ、現地食材を使った料理をあーでもない、こーでもないと研究している。


「どれ、我が焼こう」

「「「ダメっ!」」」



 数日たって、ようやくキース伝いに龍人との面会ができると連絡が入った。

 戴冠式から、1週間ちょい。ようやく疑問が解けるかもしれない。


 俺は、ミケ達を残して王国へ行き、いざ龍人の囚われている牢へ向かった。

 白い髪で、見た感じ若い龍人だ。角の枝分かれも少ない。

 だが、1人でドラゴン15体を引き連れて動けるあたり、相当腕は立つのだろう。

 後ろ手に魔封じだという手枷をされ、腕と胴体はグルグルと縛られている。


「俺様のような“ハネ持ち”が貴様らに話す事などねぇ!」


 いきなり何を言ってるか意味不明だが、おそらく龍人の中にも翼を持ってるやつと持ってない奴がいて、持ってるやつは偉いんだろうな。

 ミケでも連れてきたらもっと簡単に口を割らせる事ができたんだが、仕方ない。


 シュンッ!


 俺は牢内に転移して、コイツの翼を捻りあげる。


「いっ! イデデデデデ!!」 

「いかんな。そう言う考え方はダメだ。そういうのは差別の元凶になるんだ。いかん。この“ハネ”の所為か?」

「イデデ! 離せ! イデデデデーーーーーわ! わかった。悪かった! 離して下さいっ!」

「よし、緩めてやる。お前は誰の指示でドラゴンを連れてきた?」

「誰が言うかってえええええイデデデデー! 王だ王! ハウラケアノス様だ!」


 王? ハウラケアノス?


「サリムドランの事は知ってるか?」

「はぁ? アアアアダダダダダダ!! はい! 知ってます! 話します!」


 コイツは若いので、サリムドランの名は覚えているが、それほど詳しくはないらしい。

 龍人族は元々、支配者を置かずに“ドラゴンの巣”と呼ばれる島に集落を形成して、協力し合って暮らす種族だった。

 その中で、武力と人間性を兼ね備えたサリムドランは、大戦士と呼ばれ、同輩から敬われていた。

 サリムドランが、行方知れずになった後、ハウラケアノスが現れた。

 黒い髪色や、角の枝分かれ具合がサリムドランに似ていたが、体格や雰囲気が全く違う別人のようだったらしい。

 そのハウラケアノスは、集落を力で制圧し自らドラゴニュートの王を名乗り、更には魔人族と手を組んだそうだ。


 疑問の解決になるかと思っていたら、逆に疑問が深まってしまった……。


 とにかく、看守にコイツの口の割らせた方を使え、面会を終える。


「翼が大事だったら、ちゃんと聞かれた事には答えるんだぞ?」

「はいっ!」


 うん、生意気な龍人の教育には成功したようだ。


 公都のミケ達の元へ戻る。



「いや~わからん。王都に出た魔人族の事とか、龍人族の事、何かわかるかと思っていたんだが、余計分からなくなった……」

「何を言っておる、ユウトよ。ここで考えたり、悩んだりしておっても、ここにいるなりの解決にしかならん。わからん事があるのなら、行って、見て、感じて、考えるのじゃ」


「そうですよ、ユウトさん。私達もお父さんの仇を討つために、もっと強くならなきゃダメって思ってましたけど、この間の小さいドラゴンとの戦いは今の私とアニタでも何とかなりましたし、魔王がどれだけ強いかもやってみないと分かりません。ユウトさんもミケさんもいてくれるから、今の私達でも頑張れます!行って確かめましょう!」


「ミケ、アニカ……」

「もっと面白いところに行くの~?」

「アニタ……。」


みんなの言う通りだ。グダグダ考えてても仕方がないな。


「そうだな、公都や王都の用事も綺麗に片付いたことだし、やるべき事の1つも片付いたんだ。2つ目を片付けにいくか!」

「そうじゃ! せっかく門をくぐってこちらの世界に入ったんじゃ。面倒事は早めに片付けて、美味い物でも探しにゆこうぞ!」

「「うん!」」

「よし! じゃあ、これからアニカとアニタのお父さんの仇をー?」

「「「とるぞー!」」」


 よし、迷ってる場合じゃない。魔王をぶっ飛ばす!


「じゃが、今日はもう晩飯じゃな」

「今日はなんだろうね~? どんなデザートかな~?」

「しーっ! ユウトさんがやる気になってるのに、水を差さないの!」

「…………」


第2章 完


第3章へ続く

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