第85話 龍人族の謎と戴冠式。

 昨日は美味しい夕食を食べて、風呂にも入って、リフレッシュできた。

 公都も何やら王国で王の交代があるぞだの、あったぞだの噂が駆け回っていた。

 俺達は、公都を発つ前に、宮殿のキースのメイドさんに挨拶しておいた。そしたら、お菓子を持たせてくれた。……いい人。

 途中ダイセンのブレンダの様子を見つつ、王都に戻った。


「すまないね。午後には時間が取れるようにするから」


 キース達は、まだ慌ただしく働いている。

 フリスの王権返上と、アムートの国王即位を報せ、早期の登城と臣従を求める旨の書状が国内各地に送付された。

 俺達も暇だったので、俺とアニタは2人で、汚い城に《クリーン》をかけて回った。

 アムートの即位祝いだ。

 見違えるように白く輝く城になり、城下の民衆たちも喜んでいた。

 ミケが壊した壁や屋根は見ない振りしておいた。

 ミケとアニカは、冒険者ギルドに行って、なにやら売れ残りの依頼を処理してまわっているらしい。

 俺の汚名はマッカランの公都周辺だけなんだが……、まあ、人々の役に立つのはいいことだしな。


 昼近くになると、王国を包囲してくれていた各種族が続々と王都に入り、いよいよお祝いムードだ。



 午後には、アニタにはミケ達に合流してもらい、王城の1室でキースと2人で話す事ができた。


「メルティナがいただって!?」

「ああ、確かにこの耳で聞いたし、姿も見た。仮面で顔は隠れていたけど、角は凄くカールしていたぞ」

「それは本物かもしれないな……。しかも鎖に繋がれていたって?」

「ああ、もう1人の女と一緒に、首輪も付けられていたぞ?」

「首輪? もしかして……、いや……」


 キースが首輪に反応して考え込んでしまった。


「ユウト殿達が、ガンダーを倒した事は、まだ伝わっていないはず……、その魔王軍第2席のメルティナが鎖でつながれているなんて。それに、その2人を連れていた男とやらも不気味な存在だな」


 次に、俺がずっと疑問に思っていた事をキースに聞いてみる。


「龍人について?」

「そう、バハムートの記憶だと、龍人族は対魔王連合にいたはずなんだけど?」

「……確かに40年前は、共に魔王軍と戦った同志だった。それが、いつだったか大戦士サリムドランが行方知れずになった辺りから疎遠になり、遂には魔王軍にくみするようになってしまったんだ」


 サリムドランか。


「サリムドランの居所は?」

「いや、掴めていない。生死も不明なんだ」

「“ドラゴンの巣”には?」


 バハムートの記憶では、龍人族――ドラゴニュートは、元々魔大陸とユロレンシア大陸の間、北寄りにある“ドラゴンの巣”と呼ばれる島にいたはずだ。

 ドラゴンが棲家とする山々がそびえる、マッカラン大公国ほどの大きさの島に集落を築いて、ドラゴンと共に暮らす種族だった。

 龍人族は、ドラゴンの血を引く種族と言われ、どの種類のドラゴンの血を色濃く引いているかは、髪の色に表われるという。

 そして、魔人族と同じように、頭には1対の角を持つという。違いは角が鹿とかのように、枝分かれしていることだ。

 大戦士サリムドランは、他の龍人族が、赤(火)や水色(水)、白(風)、茶(地)といった髪色なのに対し、黒い髪色をしていた。


「う~ん? どうだろう。元々、ドラゴンの巣には近づけないからね。とにかくサリムドランがいなくなってから、ここ10数年は、ユロレンシア大陸北西部に進出し、私の国や獣人領と領土戦争をしているほどなんだ」


 ……結局、疑問の解決にはいたらなかったな。




 それから1日挟んで、いよいよアムートの戴冠式だ。

 今回の戴冠式は、城門前の広場で、王都の民達にも見える形でやるそうだ。

 教皇ローレッタが立ち会い、更に各種族の長が参列する、正式かつ最も格式高い戴冠式が始まった。


「ユ・ウ・トちゃ~~ん!」


 ピシッ!


「いったぁ~い! なにぃ?」


 俺達は関係者ということで、それなりにいい位置から戴冠式を見ているが、リーファがいつの間にか近くにいて、俺にちょっかいを出そうするたびにミケの電撃をくらっている。

 アニカは参列している女性の衣装1つ1つに興味を持って見ていて、アニタはミケとお菓子を食べながらじゃれあっている。


「リーファさんは、あっちの来賓席にいなきゃダメなんじゃないですか?」


 本来リーファが座るべき椅子には、リーファの側近が苦虫を噛み潰したような表情で座り、俺の方を睨んでいる。


「いいのよ~。私本人は来てるんだし~」


 ピシッ!


「痛ーい! 何なのコレ?」


 そして、もう1人の要注意人物・ローレッタも式典の最中にも関わらず、時々俺に逝っちゃってる視線を送ってきている。

 と言っても、ローレッタの場合は俺自身というより、俺のスマホに宿っているニアに対しての視線なんだけどね。

 ……でも恐い!


 ピシッ!



 いよいよアムートが王冠を頭上に頂き、諸侯達がひざまづいて臣下の礼をとって、戴冠式が終わった。

 ローレッタが来そうだったので、俺達は一目散に公都まで退散した。

 まあ、公都と王都行ったり来たりしてるんだけど……。


 余談だが、フリスにも妻子や側妃がいたが、女性は辺境の修道院に送られ、男性はどこぞに幽閉か小さい子は孤児院に送られたそうだ。

 フリスは、アムートの温情で処刑は免れたが、ミーナに対する所業は許されるはずもなく、同じような環境に生涯閉じ込められることになった。

 アムートが王都入りした日以降、王城の一角のどこかの塔から、夜な夜な「出せー」だの「余が国王だー」だのといった戯言ざれごとが聞こえてくるようになったそうな、なってないそうな……。 

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