第79話 王権奪還計画、始動。
******正午
エンデランス王国の主要都市。
各地に派遣された騎士や上級冒険者によって、前王太子バハムートの遺児アムートの生存が公表された。
同時に、フリスの王権の不当性の提起、フリスの悪政が民の窮状を生み、国を衰退させている事への糾弾を唱え上げた。
そして、アムートの名において、フリスへの退位要求が高らかに宣言された。
******エンデランス王国王都、正午
教会前にある広場には、食べ物屋の露店がならび、昼食を求める人々がごった返していた。
そこにフードを目深にかぶった男が、広場やその周辺の喧噪の中にいる人々に届くほどの大きな声を発した。
「王都の民よ、傾注せよ!!」
ゴーシュである。
教会を背にして立つ男のその一言に、周辺の人々は何事かと、声のした方向へ注意を向けた。喧噪も静まる。
「今をさかのぼること40有余年、我らが王太子殿下バハムート様がお亡くなりになり、国王陛下も程なくご落命なされた」
俺とミケ・アニカ・アニタは教会の屋根上にいて、ゴーシュを見守っている。
「結果、第2王子であったフリスが王位を継承したが、それで良かったのであろうか? 否! 断じて否である! 前国王陛下の正当なる後継者はバハムート王太子殿下ただお1人であり、その後継者もただお1人である!」
人々の中から「何を言ってるんだ? こいつは」「40年前の事を今更か?」などとつぶやきがポツポツ漏れ出し、ざわざわし始めた。
「我は、バハムート殿下の遺児であらせられるアムート殿下から、ありがたくもお役目を賜り、今この場で宣言する! 『バハムートの遺児アムートこそがエンデランス王国の正当なる王である』と!!」
まだざわめきもあるが、人々の目はゴーシュに釘づけになっている。
「現国王のフリスは、配下にバハムート殿下の邪魔立てをさせて落命せしめ、前国王に毒を盛って御命を奪い王位に就いたのである! これが正当な後継者と言えようか? 否! これは王権の
人々は、ゴーシュの弁舌に聞き入り、つばを飲み込む。
「そのフリスの治世はどうか? 皆は今の世に満足か? 否!
人々の中から「そうだ」「そうよ」と賛同の声が上がる。
「だが、安心せよ! 我らがアムート殿下が、
人々の賛同の声が、大きなうねりとなって、広場を埋め尽くしていく。
「よって、アムート殿下は、その御名においてフリスに要求する! お前は即刻王位を退くのだ! 退位し、正当なる王位継承者アムートに王権を返還せよ!」
「おーー! アムート殿下に王権を!」
「フリスー! とっとと辞めろー!」「辞めろ!」「辞めろ!」
王都を巡回している騎士達が、人々をかきわけて止めに来るが、止められるわけがない。
ゴーシュは俺のロックウォール先生の上にいるのだから騎士達の手は届かない。
民衆の熱は高まっていく。
騎士達は、ゴーシュを引きづり下ろすのをあきらめて、民衆の排除に切り替えた。
そんな事はさせない。
「ほれほれ」――ボワァ! ボワァ!
「たぁー!」
「てや~」
俺達は4人で散って、民衆を脅している騎士達を蹴散らして回る。
民衆たちの熱狂の声は、王城にも届く程に広がっていった。
******王城
ゴーシュが読み上げた
「ぐぎぎぎぎぃ! アムートだとぉ~? 生きておったのかぁああああ!」
フリスは、自分の元に届けられた檄文をぐしゃりと握りしめて、怒りに震えている。
「40年も経って、今頃ノコノコ出て来おってェええええええ!」
城内にも民衆の「辞めろ」「辞めろ」の大合唱が響いている。
「え~~~~いうるさい!! 五月蝿い煩い! はやく愚民共を黙らせて来い! 殺してもかまわん! 黙らせろ~~~!」
フリスは、檄文を切り裂き切り裂き、辺りに撒き散らしながら、側近たちに事態の収拾を命令した。
その時、取り巻きの1人が、息を切らしながら別の書状を持って走ってきた。
「へっ、陛下! こ、こちらを、ご覧ください」
「次はなんじゃ!」
******5日前、大公国キースの執務室
「そして、第2段階は、王国の包囲とフリスへの再びの退位勧告と諸侯への降伏勧告だ」
獣人族には、マッカラン大公国を通過して、魔人族が撤退して手薄になった王国北西部から北部一帯を包囲してもらう
同じくドワーフ族とエルフ族にもマッカランとエンデランスの国境を包囲してもらう。
ディステとエンデランス王国の国境はディステの宗教騎士団と、傭兵国キタクルスの傭兵が包囲。
「そして、第1段階実行後、足並みをそろえてエンデランス国内に進軍。この時に、各主要都市に潜入した者達が、その都市を治める領主に対して、降伏勧告をするまでが第2段階だ」
この作戦は足並みをそろえ、同時に行う事が肝なんだ。国内各地から、一度に大量の緊急事態の報を流させる事によって、フリス側の思考を停止させ、無駄な抵抗をさせない為でもある。……漫画の知識だけどな。
******現在
キースの計画通り、各都市に潜入した騎士や冒険者は、檄文の発布後、熱狂する民衆を引きつれて各領主屋敷へ向かい、降伏勧告の書状を叩きつけた。
王都のゴーシュもまた、俺達が騎士を蹴散らしている内に、岩壁から下りて民衆を引きつれて王城へ向かい、フリスへの退位勧告の書状を門兵に叩きつけた。
******王城、謁見の間
「包囲してるだ~? 退位しろ~? ふざけおって! 包囲など蹴散らせ! 何のための騎士団だ!」
「陛下! 北部や東部の領主から救援要請の鳥文がきております! のろしも上がっております!」
「同じく南東部からもです!」
「何!? 王都だけではないのか!」
「陛下! 王城が取り囲まれていて、早馬が出せません!」
「そんなもの、城内の騎士団で愚民共を押し潰せばよかろうがっ!」
「それでは民がいなくなってしまいますぞ?」
「国なんぞ、王がいれば、余がいればなんとでも再建できる! 煩い愚民なんぞ踏み潰してしまえ!」
「陛下! 北東部、ダイセンの領主が降伏ののろしを上げています!」
「くっ! ダイセンめ~! 余の為に戦わないばかりか、降伏など~~~! 許せん!」
「お、終わりだ……」
「これ以上何をしろと……」
次々に舞い込む救援要請や降伏の情報、そして、城外の民衆の異様な雰囲気にのまれ、王城は徐々に思考停止して行った。
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