第80話 王城、包囲。

 この日、城内にいた騎士団は、近衛騎士団を始め数隊いたが、王城からの出撃は諦めたようで、門を堅く閉ざして城にこもっていた。

 軍が通れるような通用口には、ゴーシュが率いる内通組や、俺達が散って押さえていたし、細い通用口も民衆によってバリケードが築かれていた。

 特に、俺・ミケ・アニタがそれぞれ押さえている通用口は、騎士団にとって恐怖の対象になっている……ようだ。


 夜が更けてきて、集まっている群衆も休んだ方かいいと思って、俺は各通用口や通路をダンジョンの瓦礫で塞いで回った。

 これで、簡単には出て来れないだろう。


「ミケ? ミケの塞いでる所が一番怖いって、王都の人達が噂してるぞ?」

「何が怖いものか。我はチョチョっと可愛がってやっただけじゃ。本気じゃったら地獄と化しておるわ」

「ま、まぁな……。いいか? ここはアムートの王都になるんだ。くれぐれも本気を出すなよ?」

「わかったわかった」


 周囲の人々に余裕ができたところで、この場をゴーシュとミケ達に任せて、俺は1人で公都へ転移した。

 宮殿にいき、キースへの取り次ぎを頼むと、見知ったメイドが応対に出て来て、キースはアムートと共に出陣し、今はダイセンという町にいるという。


「ダイセン!? もうそこまで行っていたの?」


 メイドに礼を言って、俺もダイセンの町に転移する。

 しかし、あのメイドさん。ただのキース付きのメイド長だと思っていたけど、こんな情報も得られる立場なんて、ただのメイドじゃないな……。


 ダイセンの冒険者ギルドの屋根に転移すると、見下ろした広場に多くの投降兵が集められていた。

 程近い『花と火亭』が気になって外から覗いてみると、大公国の騎士の休憩場所になっていた。

 ブレンダが、俺を目ざとく見つけて外に出てきた。


「ちょっとー! 兄さんが言ってたのはこの事かい? 今日は昼から大騒ぎだよ」

「大きめの町はどこもそうだぞ? ここはアムートさんの軍の通り道だから、小さい町でも作戦の対象になったんだな」

「まぁ、それで態度のなってないこの街の騎士達が取っ掴まってくれて良かったよ」

「これから大公さんとアムートさんのトコに行きたいんだけどなー? どこにいるんだろう」

「それなら領主館だろうさ。ここの騎士さん方も行ったり来たりしてるよ」


 ブレンダに別れを告げて、言われた方向の領主館に行って、取り次ぎを頼んだ。

 中に案内されると、キースとアムートが揃っていた。


「よくここが分かったね。ユウト殿」

「ああ、知ってる町でよかったよ。それにしても、もうここまで進軍しているとはね」

「ああ、ここの領主もそうだけど、多くの諸侯が投降の意を示しているよ」

「自分の命が大事だからだろ? 風見鶏って奴だな……。これが終わっても、アムートさんは貴族の統制に苦労するだろうな」

「そうなのです。ですが、民達の苦しみを考えれば、断じて甘くはしませんよ」


 明日の予定を確認する。

 アムート達は明日中に王都に入れるように、明日はダイセンの馬を接収し機動力を上げたうえで、日の出前には出発するそうだ。


「俺達は帰って、引き続きゴーシュ達と王城の封鎖をしておくよ。それに、辺境の貴族達は降伏しても、中心部の貴族達は抵抗を続けるかも知れないし、気は抜けないな」



******王城



 王城には、隠し通路を通じて、ポツポツと近隣貴族からの連絡が来ているものの、遠方の領主からは降伏の鳥文やのろしが続々と確認されていた。


「くそ~! あの田舎者どもめ! 余への忠誠心はないのか! クズクズクズクズ、クズばかりだっ!」


 近衛騎士団の団長がノコノコと来おって!


「団長! 貴様~! なぜ打って出なかったんだ! 愚民共など蹴散らしてやればいいのだ!」

「恐れながら陛下。敵にも強者がおりまして……、もし打って出ていれば、逆にやられていたかもしれません」

「なんだと~!? それでも騎士か!」

「あ、明日になれば、王都の外にいる騎士団との挟み打ちができ、活路を見出せるやも知れません」

「明日だな? 見ておれ~、今更出てきたアムートなど踏み潰してやるっ! ……それと、貴様らがせっかく城内にいるのだ、逃げようなどとしているものは必ず切り捨てろ! 」

「ははっ!」


 くそ~~~~! どいつもこいつも役立たずばかり! 

 ……だが、近衛によれば、明日には外の馬鹿どもを駆逐できるという。それまでの、たった一晩の辛抱だ。

 余が辛抱せねばならんとは、屈辱だ。おぼえておれ~~~愚民共!

 それに、余はアムートには1番効く手札を持っておる! 

 ぐふふふ、貴様の顔を拝むのが楽しみだ。

 くっくっく! 生かしておいて良かったわ。



******ユウト



 王都に戻ると、ゴーシュ達はもうマントを脱いで大っぴらに姿をさらして、今でも忙しそうに動いていた。

 ゴーシュの元へ行き、キースやアムートとの話の内容を伝える。


「そうかそうか! 早ければ明日中にはいらっしゃるか! それまでにクズ共を一掃しておかねばなっ!」


 また、鼻息が荒くなってきた……。

 くれぐれも早まらないように釘を刺して、ミケ達の元へ行く。



「ユウト~! 遅かったのじゃ! 腹が減ったのじゃ!」

「すまんすまん。城に動きはあったか?」

「いや、静かなもんじゃ。たまに鼠が穴から出たり入ったりしちょったから、3人で捕まえたがの」


 やっぱり隠し通路があったか……。


「その穴は?」

「塞いでおる。……それより! ご飯じゃ!」

「おなかすいた~」

「何も食べずに待っててくれたのか?」


 周りを見ると、有志による炊き出しはあるが、量は足りてないみたいだ。

 とりあえず、温かいスープでも大量に作って、ゴーシュ達に差し入れでもするか。

 明日になって、腹が減って力が出ませんでした、なんて話にならないからな。


 城門から少し離れた静かな場所で、俺とアニカで差し入れスープを作り、ミケとアニタに久し振りにテントの準備をしてもらう。

 俺達も夕食を済ませ、ゴーシュ達や民衆に差し入れをし、テントに戻る。

 ゴーシュ達は気が昂っているから、眠れないだろう。

 なら、そのまま警戒に当たってもらって、俺達はちゃんと休息する。

 アニカ達も、これまでの旅ですいぶん肝が据わってきて、もうすでに眠りについている。


 明日で決着かな。……このまま何も無ければいいな。

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