第13話 レベル1の男と0歳の白狐。

 名前 : ミケ

 種族 : 白狐

 年齢 : 0

 レベル: 3

 称号 : 世界を渡りし者 異界の神の眷族

 系統 : 武〈拳・爪・獣〉 農 

 スキル: SS・操雷〈10〉 A・言語理解 



「……なんか、ツッコミどころが多すぎるな」

「お姉ちゃん0歳なの~?」

「コラッ! アニタ!」

「う~! だから我は見せとう無かったのじゃ! ニア! どういうことなのじゃ!」

「……ミケさんは色々ありすぎます!」


 困惑しながらも続ける。


「まず、この世界に無い種族……。しかも、種族じゃなく個体扱いですし。称号も解りません! スキルの【操雷】もこの世界に無いスキルなんです……、だからSSランク! 年齢は、恐らく寿命の定かではない存在? から寿命のある存在に変化したためだと思われます。だから、ミケさんは実質生まれて1日目ですね……」


 プッ! くっ! 

 俺もアニカとアニタも笑いを堪えるのに必死で、話が入って来ない。


「ぐぬぬぬ、お主ら我を馬鹿にしておるのか? うん?」

「い、いや、そんなことはないぞ。年齢はともかく武の適正が3つもあったり、スキルだって世界に1つしかないものらしいし、凄いじゃないか」


 なんとか怒りを治めてもらわないと……。


「そ、そうかの~? 世界に1つか、……なかなかいい響きじゃな! 悪くないのぅ」


 なんとかなったか、良かった。アニカもほっとした表情になったな。


「でも、ミケちゃんは赤ちゃんなの?」


 ブハッ! ハハハハハハハハ! ヒィ~。


 アニタが全部ぶち壊しちゃった。……あどけない少女が、純真な瞳で聞いてくるんだもんな。


「ユウト! おのれ~」


 ミケは、ポカポカポカと俺を叩いてくる。


「わ、悪かったってば、謝るから!」

「そうです。ミケさんごめんなさい。――ほらっ! アニタもごめんなさいしなさい!」

「ミケちゃんごめんね。妹ができたと思ったの……」


――!! ……堪えろ俺! 堪えろよ~、もう少しで笑いをやり過ごせる。……あ、無理だ。


 ブハッ!




 ふ~、また繰り返してしまった……。が、もう大丈夫。

 気を取り直して、もう1度ミケの称号やスキルについて、ニアから話してもらったところだ。


「異界の神ってことは、地球の神、それの眷族ってことか? ミケは」

「まあ、神と言えば神か……。一応我は豊楽の神の使徒? 眷族? じゃったが、特に何も言われておらなんだし、してもおらん。興味無かったしの」


 さらっと言っちゃってるけど、本当にいたんだ。神様とか眷族とか……。



「あ、そうだ。ニア、ステータスとかって、俺の勝手な想像だと“体力”とか“攻撃力”とかを数値化したもんじゃないの?」

「……えーっと、ずっと昔にですね、そのような形でラべリングしていたのですが、結局魔人族のように力を追い求めるようになって、世界が荒廃したので伏せらるようになったようです」


 神話とかおとぎ話とかではなく、実際に争いによって不毛の地となり、実在するのに人々の記憶や地図から抹消された大陸があり、生き物のいない黒い荒野が広がっているらしい……。

 なんだか重い話になってしまった。

 誰か雰囲気を変えてくれそうな話を振ってくれないかな? お? アニカ?


「私……、言おうかどうか迷ったんですけど……、ユウトさんだけレベル1です、……よね?」


 うわぁ、よりによって触れられたくない話題きた~。


「そうじゃぞ~? ユウトはここに入ったとたん倒れて、モンスター共と戦っておらんからのう?」


 ミケの目が変な意味で輝いている……。


「ま、まあそうだけど、……さっきの話じゃないけど、何もレベルが全てじゃないよな? ニア」

「そうですが、この世界では赤ん坊もレベル1です」


 ニア~、そーゆー言い方したら……。


「あれ~? お主、我の事をさんざん笑ろうたくせに自分も似たようなものではないか~?」


 ……まずい、話題を変えないとミケにいいように笑われる。



「ところでニア? このダンジョン――」と、無理矢理言いかけた時、

「お兄ちゃん! 奥、遠くにモンスターの気配がする! ……ウルフかな、3体」


 おお、全然見えんし、気配も感じない。……だいぶ遠いのにアニタは鋭いな。


「そうじゃな、かなり遠いがこっちに向かって来ておる。お主らが騒ぐからじゃ」

「いや、ミケも騒いでただろ?」



 さて、迎え撃つか、突っ込むか? ……まあ、その前にやっておきたいことがある。


「まだ会敵まで間があるから、ニア、この入り口はすぐには無くならないのか?」

「はい。恐らく最下層の出入り口を出たら扉か門があるはすですので、それを破壊しない限りは……」

「う~ん。じゃあさ、この坂を魔法で塞げば、とりあえず地球の人間は入って来られないんじゃないか?」


 ニアのなるほど! という表情で、できることが窺える。それで地球の被害は出なくなるだろう。



 何発か《ロックウォール》を放ち、入り口からそれなりの距離を埋めることができた。

端っこが地球側に出たかもしれないが、知らん! 標高変わっちゃったらゴメン……。


「あとは、登山家さん達の遺骸を埋めて、斧? 短いピッケル? みたいなのは貰って、と」



 モンスターは、発見した所から半分ほどの距離まで来ている。


「よし、ミケ! 2人で突っ込んでいこうか」

「よかろう。ではゆくぞ! レベル1!」

「おう! 0歳児!」


 この低レベルなお互いの挑発に、俺たちは小突き合いながらモンスターのもとへ向かう。


「2人とも待ってください~」

「お姉ちゃん待って~速いよ~」



 まあ、サクッと倒したんだけどね……。

アニカとアニタは息も絶え絶えで追いついた。


 魔石を拾い、《ライトニング》を使いそのまま進む。

 一本道ではあるがよく見ると所々に死角となるようなスペースが開いている。


「ゴブリンどもはこういう所に潜んでたりするんだろうな」


 しばらく進むと下り坂のカーブにさしかかった。


「あれ? もしかして、これで一層目終わりかな? ニア?」

「そうですね。これを下ると2層目ですね」



 どうするか? 時間的には全然いけるけど、今日は初日。

 しかもアニカとアニタは今日まで過酷な日々を送り、今日に至っては展開が目まぐるし過ぎる。

 まあ、俺もミケもそうなのだが……。とにかく疲れが出ないうちに休もう。安全第一だ。



「みんな、ちょっと戻ったところに丁度いいスペースがあったから、今日はそこで休もう」

「何? もうか? 我はまだピンピンしておるぞ?」

「私も大丈夫ですよ。なんだかあまり疲れないんです。スキルのおかげですかね?」

「え~! もうちょっと遊びた――がんばれるよ~」


 アニタちゃん……、遊び気分だったの?


「そうだろうけど、今日はみんな色々あっただろ? 安全第一だ。さっ!テント設営するぞ! ミケもケーキ食べたいだろ?」 

「むっ! そうじゃな。ほれ皆で準備じゃ準備!」




 テント周りには無属性の結界バリアを展開し、俺とミケが交代で見張り役をすれば大丈夫かな?

 テント内に出したマットレスでは、アニカとアニタがじゃれ合っている。


「よ~しみんな! 明日に備えて早めにご飯食べて休もう! ニア、初めてのご飯だぞ!」


 ニアはドキドキワクワクが止まらないみたいだ。


「うむ。ケーキもじゃぞ!」


 ミケ……。

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