第67話

「それで? あお、あなたは何がしたいのかしら? あたしが聞いてあげるから話しなさい」

 四強よんきょうの『あか』との戦いが終わり、くれないは青を捕らえ、屋敷へ戻った。そして、ここは、王鬼おうきのいる和館の一室。座敷には王鬼、その配下五人、四之宮、如月きさらぎがいた。あおくれないに睨まれ、不機嫌に顔を背けている。

「話してくれないのなら、もう二度とりっちゃんに会わせてあげないわよ」

 紅が言うと、青はピクリと反応した、どうやら、『赤』が言っていた通り、青は四之宮にご執心のようだ。

「何を話せばいい?」

 青はぶっきらぼうに言った。

「そうね。まずは、あなたの組織での役割、それから、『白き神』の隠された能力について。あなたの知っている事を洗いざらい話しなさい」

 紅の言葉に、

「分かった」

 と答えて、青は語り出した。


 青の役割は、まだ幼い水の能力者の教育係、四之宮も青の下で、能力の使い方を学んだ。青は誰に対しても厳しく、そして冷淡だった。人の感情を持ち合わせていない、冷酷無情さに誰もが恐れるほど。それは、四之宮に対しても同じだった。能力には個人差があり、強くなる見込みのある者は、強制的に力を引き出すために、ことごとく傷つけられた。四之宮は力が弱く、その度に死んでは蘇生されることを繰り返された。強くなれる見込みがないと分かると、最後は身体に爆弾を仕込まれ、紅の屋敷に送り込まれたのだった。しかし、それは、青の指示ではなく、もっと上の者が仕組んだことで、青には知らされていなかった。それに気付いた時には、四之宮は既に敵地へ送り込まれ、生死も分からない状況だった。なんとか、情報を掴もうと、今井と黒猫をおびき出したが、いくら傷つけても、情報を明かすことはなかった。諦めたわけではなかったが、組織の動きも活発になり、単独で動くことも難しくなった。

 そんな時だった。『赤』が配下を連れて襲撃に向かう事を知ったのは。そして、隙を見て四之宮を奪い返すつもりで隠れて様子を見ていた。しかし、『赤』の炎が四之宮を襲った。


「俺は、『赤』と敵対しても、りつを守りたかった」

 と青は素直に言った。それを聞いて、紅の表情は穏やかになった。そして、四之宮は驚いた顔をした。青の気持ちには気付いていなかったのだろう。それもそのはず、あの冷徹な男、四之宮の能力を引き出すために、何度も殺した男、あの冷たい人形のように表情のない男。どう考えても、情のある人とは思えない。

「あなた、りっちゃんの事が好きなのね?」

 紅はにやりと笑って、揶揄うように言った。それに対して、不快な表情で顔を背ける青。本音を突かれて、何も言い返せないのを見て、面白いとばかりに、紅は更に揶揄った。

「りっちゃんは、青の事をどう思っているの? 言ってあげなさいよ」

 紅の言葉に、青は驚いて目を見開き、四之宮の方へ顔を向けた。彼女がなんと答えるか、それを知りたいという気持ちと、拒まれるのではないかという不安で、青の顔にはその複雑な感情が現れていた。

「冗談、冗談。りっちゃん、まだ、答えちゃだめよ。気持ちを伝えるのは、もっとちゃんと考えてからね」

 紅はそう言って、その話しを終わらせて、

「さあ、続きを話して。今度は『白き神』についてよ」

 と次の話題を振った。青は感情を弄ばれ、どうにも落ち着かない状況で、紅の尋問が続けられた。


 『白き神』の能力は治癒。死んだ者を生き返らせることも出来る。そして、命を吸い取ることが出来る。生きた者の精気を奪う。だから、誰も奴には敵わない。見た目は子供。小学生の中学年くらい。髪の色は白。肌も白い。瞳の色は青みがかった白。この世の者とは思えない。人を傍に置かない。警戒心が強い。誰も信じていない。


 青はそこで言葉を切った。

「奴の事は、誰も理解できない。神の如く孤高で、孤独だ」

 そう言った青の顔は、なぜか悲しげに見えた。『白き神』に同情しているのか。孤独である事を、自分と重ねているのか。


「そう、話してくれてありがとう。青、あなた、これからは、ここで暮らしなさい。りっちゃんの護衛につけるわ」

 突然の決定事項に、青は驚いたが、周りの者たちは、これが紅なのだと知っている。

「さて、あなた。青と名乗っているけれど、本当の名はあるのでしょう? 名乗りたくなければ名乗らなくてもいいけれど?」

 紅が言うと、

森川もりかわ碧斗あおと

 青はそう言って、差し出された紙に名前を書いた。

「あら、それじゃ、呼び名はあおでいいわね? ここにいる者たちの紹介は省くわ。あなたも疲れたでしょう? 本館で休みなさい。部屋はりっちゃんと一緒で。ベッドはもう一つ用意させるわ」

 紅の言葉に、碧は驚き、

「待ってくれ。同じ部屋はちょっと。りつも嫌だろう?」

 慌ててそう言ったが、

「何を言っているの? あなたはりっちゃんの護衛よ。片時も離れちゃだめよ」

 と当然のように紅が言った。四之宮を一人にして、連れ去られた事もあり、今は紅が律と一緒に寝ていた。

「りっちゃん、嫌なの?」

 紅が聞くと、

「嫌ではありません」

 と四之宮が答え、碧はこの日から四之宮と同室で寝起きすることとなった。

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