第六章

第68話

 頂上決戦


あかき神』対『しろき神』


「さて、みんな集まったわね」

 ここはくれないの屋敷の本館、応接間。集められたメンバーは、紅の父、藤堂総一郎、兄の藤堂高一郎、その母、藤堂咲。紅の祖父、中臣なかとみ弘道こうどうと修行者十人。王鬼おうきと配下の五人。今井と黒鬼こっきこと、佐久間(黒猫)。くれないの従者、さかき如月きさらぎ。この二人は無能力者。松野、与田、満島、上原うえはらまことみのる。紅の助手の山本。青鬼せいきこと、水使いの篠崎。四強よんきょうの『あお』と呼ばれていた、森川もりかわ碧斗あおとと四之宮。そして、紅の総勢三十四人である。

「それじゃあ、作戦会議を始めるわ。まずは、状況の説明から」

 紅がそう言って、組織について、知り得た情報を伝えた。

「それで? 敵の数はどれくらいかしら?」

 藤堂咲が聞くと、

「あら、その情報は聞き忘れたわ。誰か知っているかしら?」

 紅の言葉に、咲は呆れた顔をしたが、誰かが答えるのを待った。

「おおよそ、三百人ほど。常に増えたり、減ったりしているから、正確な数ではないが、多く見積もってもそれくらいだ」

 とあおが答えた。

「意外と多いのね」

 紅はそう呟いて、

「こちらの戦闘要員は……」

 と集まった面々を見回した。

「パパとおば様は、しばる者だから待機組。お兄ちゃんも、もちろん待機組よ」

 紅が言うと、

「当然よ」

 と咲が鼻を上に向けて、ツンとした表情で高飛車に言った。呼び出されたことが、余程お気に召さなかったのだろう。そんな咲の態度に、紅は少し苛立ったが、いつものことと聞き流し、

「榊、如月は無能力者だから待機。りっちゃんは弱いから待機組よ。もちろん、あおはりっちゃんの護衛だから待機組。それ以外は全員、戦闘要員」

 と皆に告げた。それから、

「次に、戦闘部隊の構成を言うわ。後衛部隊に光の能力を持つ今井さん。あなたには死なれちゃ困るの。もちろん、黒鬼こっきも一緒よ。松野、与田、満島は今井さんの護衛で後衛部隊。おじいちゃんと以下十人は中衛部隊。前衛、後衛部隊の支援。王鬼おうきと以下五人。篠崎、助手君、上原兄弟とあたしは前衛部隊。前衛は最前線で敵を蹴散らす。これに異議がある者は?」

 と構成の発表と共に、皆の意見を聞いた。誰も答えないのは、異議はないという事なのだろう。

「それで? 決戦はいつ?」

 咲が聞くと、

「明日、夜が明けたら敵地へ向かうわ。みんな体を休めて、明日に備えなさい」

 紅が言った。


 明朝、陽が昇り始めた頃、全員、食堂で朝食を取ったあと、エントランスに召集された。

「さあ、決戦の開幕よ」

 紅の号令に、戦闘部隊は出発した。とはいえ、彼らの向かう場所は、避暑地で有名なリゾート地の更に奥。そして、戦闘部隊の人数は二十七人。藤堂の会社の専用バスを使って、まるで社員旅行。紅は遠足気分でお菓子とジュースを持ち込み、バス旅行を満喫していた。

 バスに揺られること三時間。高原のリゾート地に着くと、大きな屋敷の前にバスは止まった。

「さあ、みんな、着いたわよ」

 まさか、敵地へバスで乗り込んだのかと、一部の者は警戒していた。

「何しているのよ? さあ、降りなさい。ここはうちの別荘よ。ほら、入って」

 と皆を急き立てた。

「みんないるわよね?」

 紅が見まわして、全員いることを確認した。

「ここを戦闘要員の本陣とするわ。後衛部隊はここで待機。前衛部隊と中衛部隊で敵陣へ向かう。みんないい? あたしたちは死にに行くわけじゃないわ。敵を殺しても、あなたたちは死なせない。後衛部隊は怪我人の救護が主な任務よ。さあ、戦いの準備はいいかしら?」

 紅はそう言って、前衛、中衛部隊を引き連れて本陣を出た。木々が生い茂る高原地帯。夏も終わりかけ、心地よい風が流れる。しかし、紅たちは既に多くの気配に囲まれていた。敵であることは間違いないが、彼らはまだ何もしてこない。三十分ほど歩くと、いかにもという程の大規模な施設が見えてきた。

「ここね?」

 紅が聞くと、

「ああ」

 と王鬼は答えた。その時、それまで隠れて紅たちを包囲していた敵が、姿を現した。

「紅き悪魔、これ以上は進ませない」

 一人の男がそう言って、紅と対峙した。しかし彼らだけでは、紅たちの足を止められないことは明らかだった。敵の施設からも数十人の援軍が加わり、戦闘が開始された。

「おじいちゃん、あたしたちは先に進むから、ここはお任せしたわ」

 紅はそう言って、施設の閉じられた門を、強風で吹き飛ばして、歩みを進めた。

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