第65話

 こうして、くれないには新たな仲間も増え、別邸で王鬼おうきとその配下五人も暮らし始めた。大所帯である。別邸は和館で広い座敷に個室が一つと客間が一つ。広い内風呂に、囲いのついた露天風呂などがある。

 別邸では五人の配下が王鬼の傍仕そばづかえとして、雑用、掃除、給仕などを担っていた。そして、今、王鬼は本館である洋館の応接間で、紅に優雅なアフタヌーンティーに誘われていた。

黄鬼おうき、あなた、「王鬼おうき」と呼ばれている事、どうして、あたしに言ってくれなかったの? あなた、それだけ強いんですものね。王と呼ばれるに相応しいわ。あたしも、あなたを「王鬼」と呼ぶわ。呼び方は同じでも、「黄」と「王」では意味がまったく違うもの。あたしは強いあなたをとても高く評価しているのよ」

 紅が言うと、

「お前がそう呼びたいのなら、それでいい。俺はただ、お前にとっての「王」ではなく、友でありたいと思ったから、「黄鬼おうき」と名乗ったのだ」

 と王鬼は答えた。それを聞いて、

「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。あなたを配下になんて言って、ごめんなさい。あなたが強くて悔しかったのよ。でも、素直に言うわ。あなたはあたしよりも上の存在だわ。黒猫ちゃんがあなたを別格と言った意味が分かったわ」

 紅がここまで誰かを褒め称える言葉を発したのを聞くのは、榊にとっては初めてで、それだけ、この王鬼に敬意を表していることが窺えた。

「さて、本題よ。あなた、組織の上層部に位置していたのだから、組織について詳しいのでしょう? 知っている事を話してくれないかしら?」

 紅が聞くと、

「話すのは構わないが、何を聞きたい?」

 王鬼は、笑みを浮かべて頬杖をつきながら、紅に質問した。

「そうね。まずは、四強よんきょうの他のメンバー。『あお』と『あか』について」

「分かった」

 王鬼はそう言って語り出した。


 いにしえの者の組織『夜明け』には、四強と呼ばれる者たちがいる。それぞれの属性、『水』、『火』、『土』、『風』の能力を持つ。そのうち、王鬼が『土』、先日、紅が処刑した女が『風』。そして、残るは『水』と『火』の能力者。

 水の能力者は『青』と呼ばれる若い男。彼は非常に冷徹で、組織内でも近寄り難い存在とされている。綺麗に整った人形のような顔には表情はなく、心は読めない。常に警戒を解かず、彼の冷たい目で見られると、心までが凍りつきそうだと、周りの者たちは恐れている。しかし、王鬼にとっては取るに足らず。『青』はいにしえの者として誕生してまだ日が浅い。精神も幼く、力も弱い。と王鬼の見解を付け足した。

 火の能力者は『赤』と呼ばれる若い女。彼女は王鬼の前に姿を見せた事はない。噂でしか聞いたことはないが、強い力を持ち、多くの配下を従えているという。

 それから、『白き神』。俺はそいつに一度だけあったことがあるが、あいつは俺を警戒して、それ以来、会うことはなかった。


 王鬼がそこで言葉を切ると、

「その『白き神』は一体何者なの?」

 紅が質問した。

「光の能力者だ。しかし、解せぬ。俺が知っている光の能力者は、世を乱すいにしえの者をしずめ、平和をもたらす存在のはずだ。そして、もう一つ、奴は俺たちの知らない能力を持っているようだ」

 と王鬼は答え、

「あら、それは聞き捨てならないわね。その隠された能力とは一体何なの?」

 紅が聞くと、

「それが、分からない。探りを入れようとしたが、警戒されて、会うことも出来なくなった」

 王鬼はそう言って、言葉を続けた。

「警戒心の強い『白き神』だが、あいつは『青』を傍に置いている。どうやら、『青』は奴のお気に入りのようだ」

 それを聞いた紅は、

「それは好都合ね。『青』を捕まえて、『白き神』の秘密を吐かせてやるわ」

 と言って、不敵に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る