第64話
「ニャー(まったく、遊びが過ぎるぞ)」
「でも、光りの能力者がいるじゃないか。大したことじゃない」
「何てことをするんですか! これは酷すぎます」
今井は彼を非難した。しかし、考えてみれば、
「とにかく、紅の屋敷へ行きましょう」
今井は、紅の身体を光の能力で治してからそう言って、彼女を抱きかかえた。
彼らが屋敷へ着くと、
「紅様!」
「怪我は治しました。今は意識を失っていますが、問題ないと思います。ゆっくりと休ませてください」
今井が言うと、榊は紅の身体を受け取り、
「ありがとうございます」
と頭を下げて、
「この状況を後ほど、ご説明頂けますか?」
と冷静に言葉を続けた。
「はい」
今井が答えると、榊は紅を部屋まで運んだ。紅の屋敷には、四強の『黄』とその配下の男五人。紅の配下の上原実と、松野、与田、満島がいた。上原誠は仕事に行っていて、四之宮は学校へ行っている。敵の襲来に、いつも駆け付けていた紅の兄の高一郎が来ていない。これは、母に止められているからだろう。高一郎は縛られているのだ。
「では、ご説明をお願いします」
榊は応接間に全員を集めて言った。
「まずは、この男が何者なのかをお話しします」
今井がそう言って、佐久間から聞いたことを語り出した。
四強の『黄』と呼ばれているこの男は、佐久間と同じく、古い時代からの
紅の怪我は、もちろん、この「王鬼」と戦った時に負った。彼は紅より遥かに強い。だが、「王鬼」は誰も殺さない。強すぎる彼は、相手を殺す必要がない。ただ、圧倒的な強さを見せるだけでいい。
そこまで話すと、今井は言葉を切った。そして、黒猫佐久間は尋ねた。
「ニャー(四強の『黄』として組織の一員となっていたが、それは単に、お前の退屈しのぎに過ぎないのだろう?)」
「そうだが、それも飽きた」
王鬼が答えた。
「ニャー(これからどうする?)」
「紅の側につく。そっちのほうが面白そうだ。まさか、黒鬼、青鬼に、光りの能力者までいるとはな。もっと楽しめそうだ」
と不敵に笑った。
「ニャー(紅がお前を受け入れると思うか?)」
黒猫佐久間が言うと、
「あら、こんなに強くて面白い者を、受け入れないわけがないじゃない」
と言いながら、紅が応接間へ入って来た。
「紅様」
榊と如月が同時に言って振り返った。
「もう、お身体は大丈夫でしょうか?」
榊が聞くと、
「ええ、もちろんよ。今井さんの癒しの力で怪我は治ったもの。あたしは強いのよ。こんなことぐらい、どうってことないわ。それであなた、初めまして。そして、ようこそ我が家へ。あなたが望んであたしの配下につくのなら大歓迎だわ。改めて名乗りなさい」
と高飛車に言った。紅よりも遥かに強い「王鬼」だが、これも余興とばかりに喜び、
「お前は面白い。今からお前の配下になろう。名は「黄鬼」だ」
と笑顔で言った。
「そう、「おうき」ね。どんな字なのかしら?」
紅が尋ねると、
「もちろん、色を表す「黄」に「鬼」と書く」
と王鬼は答えた。
「あら、四強の『黄』と同じね。よろしく。あなたの配下の五人はどうするのかしら?」
紅が言うと、
「そうだな。お前たち、組織に残るか? それとも、俺について来るか?」
と王鬼は配下の者たちに尋ねた。
「私はあなたについて行きます」
一人が言うと、次々と彼らは王鬼について行くと答えた。
「あら、あなた。配下に者たちに慕われているのね。気に入ったわ。みんなまとめて、あたしの配下になりなさい。今日から離れの
紅が言うと、榊は、
「畏まりました」
と言って、松野、与田、満島を連れて応接間を出て行った。
「さて、「黄鬼」。あなたがあたしより強いことは分かったわ。でも、もう、あたしの配下よ。これで、あたしの組織もさらに強くなったわね」
と紅は不敵に笑う。
「ニャー(調子に乗るな)」
黒猫佐久間が言った。
「あら、黒猫ちゃん。何か文句でもあるのかしら? あたしが最強なのは、強い仲間がいるからよ。あなただって、あたしの仲間じゃない」
「ニャー(「王鬼」は別格だ。奴を軽視するな)」
「あら、軽視なんてしていないわ。とても高く評価しているのよ。あたしを殺せるほど強い者に会ったのは初めてだもの」
殺されかけたことを、喜んでいるかのような紅の発言に、
「本当に面白いな。紅き悪魔は」
と言って、王鬼は声を立てて笑った。それを見て、黒猫佐久間は、
「ニャー(珍しいな。お前がそんな風に笑うのは)」
と嬉しそうに呟いた。
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