第64話

「ニャー(まったく、遊びが過ぎるぞ)」

 黒猫佐久間くろねこさくまは呆れたように言った。

「でも、光りの能力者がいるじゃないか。大したことじゃない」

 四強よんきょうの『』が言うと、

「何てことをするんですか! これは酷すぎます」

 今井は彼を非難した。しかし、考えてみれば、くれないの方がもっと残酷だ。佐久間との戦いの時、彼を無残に殺して笑みを浮かべていたのだから。

「とにかく、紅の屋敷へ行きましょう」

 今井は、紅の身体を光の能力で治してからそう言って、彼女を抱きかかえた。


 彼らが屋敷へ着くと、

「紅様!」

 さかき如月きさらぎが、意識のない紅を見て、大慌てで駆け寄った。紅は今井の腕に抱かれてぐったりとしている。

「怪我は治しました。今は意識を失っていますが、問題ないと思います。ゆっくりと休ませてください」

 今井が言うと、榊は紅の身体を受け取り、

「ありがとうございます」

 と頭を下げて、

「この状況を後ほど、ご説明頂けますか?」

 と冷静に言葉を続けた。

「はい」

 今井が答えると、榊は紅を部屋まで運んだ。紅の屋敷には、四強の『黄』とその配下の男五人。紅の配下の上原実と、松野、与田、満島がいた。上原誠は仕事に行っていて、四之宮は学校へ行っている。敵の襲来に、いつも駆け付けていた紅の兄の高一郎が来ていない。これは、母に止められているからだろう。高一郎は縛られているのだ。


「では、ご説明をお願いします」

 榊は応接間に全員を集めて言った。

「まずは、この男が何者なのかをお話しします」

 今井がそう言って、佐久間から聞いたことを語り出した。


 四強の『黄』と呼ばれているこの男は、佐久間と同じく、古い時代からのいにしえの者。その精神が誕生してから千年ほど経つ。彼の事はこう呼んでいた「黄鬼おうき」と。そして、佐久間は「黒鬼こっき」と呼ばれ、篠崎は「青鬼せいき」。他の古の者より古くから存在し、その力も強いことから、古の者の中では特別な存在とされていた。「黄鬼」は「鬼」の「王」の意味の「王鬼おうき」でもある。しばらく鳴りを潜めていて、彼の噂を聞かなくなった。しかし、こんな形で再会することとなるとは、これもまた、何か意味があるのだろう。

 紅の怪我は、もちろん、この「王鬼」と戦った時に負った。彼は紅より遥かに強い。だが、「王鬼」は誰も殺さない。強すぎる彼は、相手を殺す必要がない。ただ、圧倒的な強さを見せるだけでいい。


 そこまで話すと、今井は言葉を切った。そして、黒猫佐久間は尋ねた。

「ニャー(四強の『黄』として組織の一員となっていたが、それは単に、お前の退屈しのぎに過ぎないのだろう?)」

「そうだが、それも飽きた」

 王鬼が答えた。

「ニャー(これからどうする?)」

「紅の側につく。そっちのほうが面白そうだ。まさか、黒鬼、青鬼に、光りの能力者までいるとはな。もっと楽しめそうだ」

 と不敵に笑った。

「ニャー(紅がお前を受け入れると思うか?)」

 黒猫佐久間が言うと、

「あら、こんなに強くて面白い者を、受け入れないわけがないじゃない」

 と言いながら、紅が応接間へ入って来た。

「紅様」

 榊と如月が同時に言って振り返った。

「もう、お身体は大丈夫でしょうか?」

 榊が聞くと、

「ええ、もちろんよ。今井さんの癒しの力で怪我は治ったもの。あたしは強いのよ。こんなことぐらい、どうってことないわ。それであなた、初めまして。そして、ようこそ我が家へ。あなたが望んであたしの配下につくのなら大歓迎だわ。改めて名乗りなさい」

 と高飛車に言った。紅よりも遥かに強い「王鬼」だが、これも余興とばかりに喜び、

「お前は面白い。今からお前の配下になろう。名は「黄鬼」だ」

 と笑顔で言った。

「そう、「おうき」ね。どんな字なのかしら?」

 紅が尋ねると、

「もちろん、色を表す「黄」に「鬼」と書く」

 と王鬼は答えた。

「あら、四強の『黄』と同じね。よろしく。あなたの配下の五人はどうするのかしら?」

 紅が言うと、

「そうだな。お前たち、組織に残るか? それとも、俺について来るか?」

 と王鬼は配下の者たちに尋ねた。

「私はあなたについて行きます」

 一人が言うと、次々と彼らは王鬼について行くと答えた。

「あら、あなた。配下に者たちに慕われているのね。気に入ったわ。みんなまとめて、あたしの配下になりなさい。今日から離れのやかたで暮らすといいわ。榊」

 紅が言うと、榊は、

「畏まりました」

 と言って、松野、与田、満島を連れて応接間を出て行った。


「さて、「黄鬼」。あなたがあたしより強いことは分かったわ。でも、もう、あたしの配下よ。これで、あたしの組織もさらに強くなったわね」

 と紅は不敵に笑う。

「ニャー(調子に乗るな)」

 黒猫佐久間が言った。

「あら、黒猫ちゃん。何か文句でもあるのかしら? あたしが最強なのは、強い仲間がいるからよ。あなただって、あたしの仲間じゃない」

「ニャー(「王鬼」は別格だ。奴を軽視するな)」

「あら、軽視なんてしていないわ。とても高く評価しているのよ。あたしを殺せるほど強い者に会ったのは初めてだもの」

 殺されかけたことを、喜んでいるかのような紅の発言に、

「本当に面白いな。紅き悪魔は」

 と言って、王鬼は声を立てて笑った。それを見て、黒猫佐久間は、

「ニャー(珍しいな。お前がそんな風に笑うのは)」

 と嬉しそうに呟いた。

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