第63話
夏休みも終わり、四之宮、助手の山本は学生生活に戻り、紅は『神のお告げ』のお勤めをこなす毎日。
「あ~。つまらないわね」
平和な時間が退屈だった。榊と如月は、この平和な時間がいつまでも続くことを願うのだが、それを打ち消すように、その者はやって来た。
突然の地響きに、屋敷が揺れる。
「何事!」
紅は叫んだが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。敵の来訪を喜んでいるように見える。外へ飛び出すと、敵は既に、紅の屋敷の敷地内にいた。一番強いと思われる男と、その配下の男たちが五人。
「現れたわね。あなた、
紅が言うと、
「お前が、
四強の『黄』が、言葉を返した。
「ねえ、あたしと戦うのに、無力な者たちを巻き込むのはやめましょう? あなたの配下も、巻き込まれて死ぬのは嫌でしょ?」
紅は、大切な家族を巻き込まないために提案した。
「そうだな。場所を変えよう」
四強の『黄』はそう言って、土に潜り、場所を移動した。紅は風になって、その行く先へと向かった。そこは何もない広い草原だった。
「いい場所ね。さあ、殺し合いましょう」
と紅は不敵に笑う。
「いいねぇ。楽しみだ」
そう言って、四強の『黄』は、先制攻撃をかける。地面が割れて、土が紅を襲い、地中へ引き込んだ。しかし、次の瞬間、敵の足元に現れ、お返しとばかりに地中へ引きずり込んだ。四強の『黄』は、すぐに土から出て来て、
「面白いな。俺は土だ。引きずり込んでも効果はない」
と笑みを浮かべて言った。
「そうね。単なるご挨拶だもの」
紅も楽しそうに笑みを浮かべている。大切なものを傷つけられる心配がないこの状況で、紅は心置きなく戦いに集中できることを喜んでいるのだ。
紅が火炎放射を真正面から浴びせると、四強の『黄』は当然の如く、厚い土壁で防御。次の瞬間、紅の背中を鋭利な土が突き刺した。しかし、それは水分身、元の水に戻り、地面を濡らした。四強の『黄』は土の中を移動し、紅の足を捉えると姿を現し、土で紅の身体を閉じ込めた。紅は土ドリルで穴を開けて外へ出ると、更なる攻撃が襲う。歩くたびに足元は土に捉われ、その土を蹴散らしながら、四強の『黄』へ歩みを進める。
「なかなか、やるね。いい暇潰しになる」
四強の『黄』は、そう言って笑顔で紅を見ている。
「あなたこそ、強いわね。でも、あたしは負けないわ」
と紅は強気に言ったが、まだ相手が本気ではないことを悟っていた。
「そうか」
四強の『黄』は、一言言って笑みを浮かべると、紅の足を膝まで土で捉え動きを封じて、地面の四方八方から、鋭利な土で紅の身体を串刺しに、と思った瞬間、紅は風となってすり抜けた。
「ほう。躱したか」
それをさほど関心しているでもなく、四強の『黄』は呟いた。それから、空を仰ぎ見て、そこに紅の姿を捉えた。風の能力で宙に浮いている。相手が土使いであるため、地に足をつければ捉われるが、宙に浮けば有利になると考えての事だろう。しかし、四強の『黄』は、笑みを絶やすことなく、余裕の表情で、次なる攻撃を仕掛けた。地面から無数の
「なかなか、面白い」
四強の『黄』は、心から楽しんでいるように見える。
「あら、そんな余裕があるのね?」
紅も負けじと、高飛車に言った。
「紅き悪魔も、まだ余裕なのだろう?」
四強の『黄』は、そう言葉を返した。紅は分かっていた。相手との力量の差を。ただ、戦いに勝っても、負けても、紅の勝ちだということも、また事実であることも分かっていた。処刑人である紅を
「あたしは遊びに来たわけじゃないわ。組織を壊滅させるため、あなたを殺しに来たの」
死は恐るるに足らず。そんな覚悟のある紅の表情を見て、
「いい
と四強の『黄』は嬉しそうに言った。
「あら、お褒め言葉を言われるなんて、思ってもみなかったわ」
と紅もまんざらでもないようだ。そこへ、紅の知っている気が近づいて来るのを感じ取った。敵もそれに気付いて、彼らへ目を向けた。
「久しいな、
と親し気に声をかけた。
「ニャー(なぜ、お前がここにいる?)」
「暇潰しだ」
と四強の『黄』は答えた。
「ニャー(なぜ、組織に組している?)」
「面白そうだったからだ」
二人はそんな、他愛もない会話をしていた。黒猫佐久間の隣には、もちろん、今井もいるが、彼らの会話をただ聞いているだけだった。
「ちょっと、四強の『黄』、まだ終わっていないわよ。こっちに集中しなさいよ!」
紅はそう言って、敵の背後へ向かって火炎放射を浴びせた。もちろん、それは土壁で防御された。紅は即座に風となって、敵へ近付き、水の能力の氷柱で串刺しにしようとしたが、土の手に叩かれて飛ばされた。すぐに立ち上がった紅だが、その背後から鋭利な土に突き刺された。これは水分身ではなく本体だ。紅は口から血を吐き、膝を折り、右手をついて、それでもなお、敵へ左手を向けて炎を鋭く飛ばした。もちろん、そんな悪足掻きは効かず、力尽きた。敵にはまったく傷を負わせることも出来ずに斃されたことを悔やみ、意識を失った。
「紅!」
今井はすかさず、彼女のもとへと駆け寄った。敵がこれ以上攻撃することがないことを、今井は分かっていた。佐久間からこの四強の『黄』が何者であるかを聞いていたのだ。
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