第62話

 四強よんきょうの『みどり』の襲撃から一週間が経った。組織からは、特に何の音沙汰もなく、平和な時間が流れていた。しかし、そこへある知らせが届いた。

くれない様、奥様からのお手紙が届きました」

 さかきがそう言って、手紙を紅へ手渡した。先日捉えた風使いの女から聞き出した情報を伝えるから、こちらへ来るようにとの呼び出しだった。

「榊、行くわよ」


 紅が藤堂家に到着すると、黒服を着た使用人が、

「お待ちして居りました。こちらへどうぞ」

 と紅たちを招き入れた。紅には護衛の如月きさらぎと、執事のさかきも同行している。そのまま、三人は応接間へと通された。紅は重厚感のある大きなソファーに腰を掛けたが、使用人の如月と榊はその傍らに立って、藤堂咲とうどうさきを待った。しばらくすると、

「紅、早速、本題に入る」

 藤堂咲はそう言いながら部屋に入るなり、聞き出した情報をまとめた書類をばさりとテーブルに置き、どっかりとソファーに腰を下ろした。

「それは後で目を通しなさい。持って帰っていいわ。それより、あなたのことを話しなさい。私にはそれを聞く義務があるわ。私たち縛る者は、処刑人と協力して、いにしえの者をせいしてきたの。だから、黒き悪魔とも協力していた。私の言いたい事が分かるわよね?」

 藤堂咲の冷たい目が紅を見る。そんな態度に臆することなく、

「あら、それはあたしに協力を求めるという事かしら? おば様」

 と紅が高飛車に答えた。

「もう、あなたには自由はない。協力を求める? 私が? 逆でしょ? あなたが縛られているという事を自覚しなさい」

 藤堂咲は厳しい口調で言った。彼女は縛る者であり、どうやら立場はあちらが上のようだ。

「分かりました。榊、こちらからも情報の提供を」

 紅が言うと、榊が書類を藤堂咲に渡した。

「こちらでも、組織について調べているの。お互いに協力し合っていきましょう」

 紅が言うと、

「ええ。これで話しは終わりよ。帰っていいわ」

 と藤堂咲は言って、立ち上がると、応接間の外から使用人がドアを開けた。


「何よ! あの態度!」

 榊が運転する車に乗ると、紅が怒りをぶつけるように言葉を吐いた。藤堂咲の態度に腹を立てているのだ。如月も榊も、この言葉には何も返さない。二人は紅に仕えているが、その上には藤堂家があるのだ。彼らは藤堂家に雇われている。紅も分かっているから、これはただの独り言だ。車の中で散々悪態をついているうちに、紅の屋敷に着いた。

「紅様」

 榊が声をかけると、

「あら、もう着いたの?」

 と紅はけろりとしている。気が済んだのだろうと、榊は胸をなでおろした。


「お帰りなさいませ、あかかみ

 そう言って、紅を出迎えたのは、先日、紅の配下(信者)となった三人。

 松野朱里まつのあかりはメイド服、与田蒼佑よだそうすけ満島祐也みつしまゆうやは榊と同じ燕尾服を着ていた。彼らはこの屋敷で紅の従僕となっていた。

「仕事は慣れたかしら? まだ一週間だけど」

 紅が言うと、

「私たちはまだ修行の身、これから精進してまいります」

 と満島祐也が言って、頭を下げた。それに倣って、他の二人も同様に頭を下げた。彼らはまだ若く、十代後半か、二十代前半くらいに見える。紅は彼らの身の上を聞かなかったが、榊がすべて調べ上げていたことは言うまでもない。

「いい心構えだわ。榊、如月、彼らの教育をお願いね」

 紅の言葉に、榊と如月は、

かしこまりました」

 と声をそろえた。

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