第58話

 ここにいるメンバーで、『夜明け』という組織について知る者は、四之宮と、上原うえはらみのるの二人だけ。上層部については何も知らず、四強の青についても、その能力のすべてを知ることは出来なかった。まだ情報のない、他の四強三人と、『白き神』は相当手ごわいだろう。


「困ったわね。奴らとまともに戦えるのがあたししかいないなんて。りっちゃんはともかく、上原兄弟、あなた達、もっと強くならないかしら? こちらの戦力を上げないと奴らを倒せないわ」

 くれないがそう言って、ため息をつくと、

「彼らも弘道こうどうさんのところで修行させれば、戦闘能力が上がるのでは?」

 今井が言った。

「そうね。誠が仕事から帰ってきたら話してみましょう。今日の作戦会議は終わりよ」


 翌日、上原兄弟は、中臣なかとみ弘道こうどうの元へ向かった。


「紅め、何人送り込むつもりだ?」

 上原兄弟を出迎えた弘道は、苦笑いをしながら言った。


 山本の夏休みも終わり、上原兄弟と入れ替わるように帰っていった。


「お帰り、助手君」

 紅は嬉しそうに山本を出迎えた。

「ただいま戻りました」

 久しぶりに会うのを照れくさそうに、はにかんだ笑顔を見せた山本は、やはりまだ子供だと紅は思った。

「さっそくだけど、助手君。修行の成果を見せてもらうわよ」

 二人で庭へ出ると、紅からの先制攻撃から始まった。


 紅の炎の鞭を躱した山本は、炎の珠を作りそれを同時に発射した。それは避ける隙もないほどだったが、紅は土の壁でそれを防いだ。その隙を狙い、山本は瞬時に背後へと回り、火炎砲を放った。しかし、そこにいたのは水分身みずぶんしんで、紅本体はすでに移動していた。

「やるじゃない。でも、あたしはここよ」

 紅の姿は、山本の頭上。そこから水の攻撃で押し倒された。

「先の先まで読むのよ。まあ、あたしは特別に予知が働くからね。あなたは凡人だけれど、まだ強くなれるはずよ。感覚を研ぎ澄ませなさい」

 そう言って、紅は山本の手を取り、

「修業は辛かったかもしれないけれど、とても強くなったわ」

 その成果を讃えた。



 その夜、紅の屋敷を強い風が襲った。

「何事!」

 紅、榊、如月、四之宮の四人は就寝中だったが、ガラスの割れる音で飛び起きた。

いにしえの者が現れたわ。あなた達は避難して。今井さんとお兄ちゃんに連絡をして」

 紅はそう言うと、外へ飛び出した。


「こんばんは。あなたが噂のね」

 不敵な笑みを浮かべた女が言った。

「あら、あなた。こんな夜更けに来訪とは非常識ね。あたしの安眠を妨害するなんていい度胸だわ」

 紅は風使いの女に、炎の鞭で攻撃した。女はそれを薄笑いしながら見ている。

「そんな攻撃、私には当たらないわよ」

 余裕の表情でそう言った次の瞬間、紅は女の背後から土ドリルを突き刺さした。しかし手ごたえはない。

「はははっ。後ろからの攻撃を予測していないはずはないわ。私は風。そんな攻撃は効かないわよ」

「いつまで、そうして笑っていられるかしらね?」

 紅の攻撃は止むことはなかった。水の攻撃、土の攻撃と連続攻撃すら、女はすべて躱していた。しかし、女からの攻撃がない。紅の攻撃を躱すので精一杯なのだろうか?

「あなた、攻撃も出来ないほど余裕がないのかしら? それとも何か企みでもあるのかしら?」

 紅の挑発に乗ってくるほど愚かではないようだ。

「あら、焦りが見えるのはあなたの方でしょ。どんな攻撃も私には無意味だわ」

 女はそう言いながら、紅の攻撃を躱し続けている。さすがにおかしい。紅の意識がこの女に集中している間に、何か嫌な予感が走った。

「あなた、まさか!」

 紅が気付いた瞬間、女は風となって消えた。


 紅の予感は当たっていた。戦いに集中している間に、榊、如月、四之宮が組織の者に連れ去られたのだ。

「しまった……」


 そこへ、今井、黒猫佐久間、高一郎が駆け付けた。

「紅、大丈夫?」

「お兄ちゃん、一足遅かったわね。みんな連れていかれたわ。まったく、何て卑怯な!」

「まあ、落ち着こうよ。一足くらい遅くても、追いかければ追いつくよ」

「そうですね。佐久間さん、お願いします」

 今井が言うと、黒猫佐久間はさっそく匂いを辿った。

「ニャー(こっちだ)」

 黒猫佐久間はそう言って、走り出した。

「行きましょう」

 紅たちは、黒猫佐久間のあとに続いて走った。

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