第57話

「ただいま戻りました」

 四之宮が学校から帰って来た。

「りっちゃん! お帰りなさい」

 くれないが喜んで出迎えるが、四之宮は黒猫佐久間が生きているのを見ると、

「黒猫ちゃん!」

 と大喜びで抱き上げ頬擦りをした。紅は少し寂しい気持ちだったが、四之宮の笑顔を見ることが出来て感無量だった。

「すごい。どうやって生き返ったの?」

「今井さんが身体を治してくれたのよ。蘇生はあたしがしたわ」

「お二人とも、やっぱりすごいです」

 四之宮は羨望の眼差しを二人に向けた。

「りっちゃん。猫ちゃんを殺したのは、四強の青よ。あたしに宣戦布告ですって」

 紅が言うと、四之宮から笑顔が消え、その顔は蒼白になった。

「どうしたの?」

「青。あれは恐ろしい人」

 四之宮はぽつりと言った。

「知っているのね?」

「はい」



 四之宮が青と出会ったのは、六歳の時だった。能力が突然覚醒し、家族を殺してしまった四之宮の前に現れた。家族を失い、行き場を失い、この時の四之宮の思考は停止していた。

 青に誘われるがまま組織に入った。同じ水使いの青は、四之宮を戦闘要員にするため、戦い方を教え込んだ。更なる能力の強化のため、何度も殺された。そして、殺されるたびに、『白き神』の光で蘇生された。いにしえの者はこうして能力強化してきたが、四之宮にはその素質もなく、最後には捨て駒にされたのだった。



「殺す。絶対に殺す」

 紅は再び怒りのため、背中に炎がめらめらと立ち昇った。

「お怒りはごもっともですが、感情に流されないで下さい。奴は強敵で狡猾で卑怯です。こちらも作戦を練りましょう」

 今井が紅をなだめ、冷静に言った。

「もちろんよ」

 紅が気持ちを落ち着かせると、背中の炎も消えた。今井は紅の扱いに慣れているようだ。


「紅様、お食事の準備が出来ておりますが、いかがいたしましょうか?」

 榊が遠慮がちに声をかけた。

「今井さんもご一緒にいかがかしら?」

「え? いいんですか?」

「あら、遠慮する仲ではないでしょ? あたしたちはみんな家族みたいなものよ。さあ、お話しの続きは食事の後に」

 作戦会議は一時中断し、みんなで食事の時間を楽しんだ。特に紅はみんなと食事することをことのほか喜んだ。


 平和で穏やかな時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る