第56話

「ところで、つかぬ事を聞くけれど、あたしにあなたの言葉が分かったのは何故かしら?」

 くれないが聞くと、

「……」

 黒猫佐久間は答えなかった。

「え? わざとだったんですか?」

 今井が佐久間の思考を読み取った。

「やっぱりね。あたしに伝えようと思えば伝えられたのね。ほんとっ、可愛くない猫ね」

 そう言いながらも、黒猫佐久間が生き返ったことを内心では喜んでいるようだった。



「それで、あなたたち、誰に襲われたのかしら?」

 今井には戦う能力はないが、黒猫佐久間は猫になってから、防御力は上がっている。今井を守りきれないほど、敵は強かったという事なのだろうか。

「相手は水使いでした」

「ニャー(四強の青だ)」

 黒猫佐久間が言った。

「信者たちが言っていた、四強の内の一人ね。敵は一人だけだったの?」

「そうです。水使いの男一人だけです」

「何か話した?」

「紅き悪魔に宣戦布告と言って、僕と佐久間さんを半殺しにして、ここへ送り届けたんです」

「半殺しって。猫ちゃんは死んでいたし、あなただって、ほぼ死んでいたわよ」

「水使いは、あなたを挑発するためだけに僕たちを痛めつけたんです」

「それなら、その挑発に乗ってあげましょう」

「ニャー(相手を見くびるな)」

「あら、あたしが負けるとでも言うのかしら?」

「佐久間さんの言うとおり、無謀ですよ。あの水使いは狡猾です」

「狡猾って、頭がいいと言う事? それにあたしが負けると? あたしだって馬鹿じゃないわ」

 紅は少し機嫌を損ねたように、フンッと鼻を鳴らした。

「すみません。あなたを侮辱したわけではありません。ただ、今までの敵とは違うと言う事です」

 今井の言葉に、紅は口をつぐんだ。


「紅様、今、宜しいでしょうか?」

 さかきみのるを連れて来た。

「ええ、どうぞ。あなたを呼ぶつもりだったわ」

 紅が実を迎え入れると、

「では、失礼します」

 榊はそう言って部屋を出た。

「実、あなたは、『四強の青』を知っているわよね。青について聞かせてちょうだい」

 紅が言うと、

「はい。ですが、俺も青とは会ったことがないんだ」


 実はそう言いながらも、青について知っていることを話した。


 青と呼ばれれる男、見た目は十代後半から二十代前半で、髪は黒く、一部を青く染めていた。それが彼のトレードマークだという。能力は水で、自由に水を操るだけでなく、水を凍らせることもできる。防御力も攻撃力も、他の者と比べものにならないほど強い。青についてこんな逸話がある。


 いにしえの者の組織『夜明け』の理念に疑問を持ち、反旗した者たち五十人を一人で相手にして、すべての者を始末したと。


「その逸話、誇張したものではないと思います。あの水使いは、本当に強かったです」

「ええ、そのようね。黒猫ちゃん、殺されちゃったものね」

「ニャー(不甲斐ない)」

「違いますよ。佐久間さんは手が出せなかったんです。青は子供を人質にしていたんですよ」

 今井が言うと、

「なんですって!」

 紅が怒りを露わに立ち上がった。

「落ち着いて下さい。背中から炎が出ていますよ」

「あら、失礼。その子供はどうなったのかしら?」

「僕が代わりに人質になることを申し出たら、開放してくれました。だから、無事ですよ。怖い思いをさせてしまったけれどね」

 紅は深いため息をついた。

「そう。それならよかったわ。でも、赦せない。絶対にあたしが始末してやるわよ」

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