第49話

 上原兄弟は、弟の体力が回復するまで、くれないの屋敷で過ごす事となった。

「紅き神、何なりとお申し付けください。何でもやります」

 上原兄、まことがそう言ったが、

「あなた、仕事はいいのかしら? ちゃんと社会人としての務めを果たしなさい」

 紅に忠告された。

「今日は土曜日なので、仕事は休みです」

「あら、そう。それなら、さかきの手伝いをしなさい。弟君おとうとくんは学生なの? それとも無職かしら?」

「俺は……」

「すみません。弟は『夜明け』の組織に入ってから、高校にも行かず、家にも帰らず、組織のために働いていたようです。いま十八歳で、本来なら高校三年生なんです」

 兄が弟に代わり説明した。

「そう、弟君。みのるだったわね。学校はもう行かないのかしら? 復学を希望するなら、そのように手配するわ」

「そ、そんなことが出来るんですか? もう半年も行っていないんですよ」

 兄の質問に紅が答えた。

「病気のために休学したと言う事で、復学は可能よ」

「いえ、俺はもう学校には行きません」

 実はそう言って下を向いた。

「分かったわ。それなら、あなた、これから何をするべきか、よく考えなさい。学生でないなら、あなたは自分の力で生きていかなければならないわ。もう子供ではいられないのよ」

 紅は厳しく突き放すように言った。

「はい……」

 歯切れの悪い返事をした実。まだ現実の厳しさを知らないのだろう。紅の言葉で、兄の誠は、はっとした。弟はもう小さな子供ではなかったのだと。守るべき者と思っていたが、それは弟のためにならないのだと。

「厳しいお言葉、ありがとうございます」

 兄は弟の頭を掴み、一緒に頭を下げた。



 午後、紅の屋敷に来客があった。

「紅様、山本様がお見えになりました」

「あら、助手君が? 通してちょうだい」

 紅は午後のお勤めも終わり、四之宮と共に、アフタヌーンティーで優雅な時を過ごしていた。


「いらっしゃい、助手君。どうぞ座って、一緒にお茶でもいかが?」

 山本は勧められるまま、ソファーに腰を下ろすと、さかきが紅茶を注ぎ、山本の前に置いた。

「いただきます」

 山本が紅茶を飲もうとすると、

「あら、何も入れないのね? お砂糖とかジャムとか、お好きな物をどうぞ」

 と紅が言った。

「いえ、このまま頂きます」

 そう言って、紅茶の香りを楽しみながら、一口飲んだ。以外にも、ちょっと大人な山本なのであった。

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