第50話

「それで? 助手君、ご用は何かしら?」

 くれないが聞くと、

「もちろん、戦い方の特訓ですよ。師匠、この時間は暇ですよね?」

 山本が言った。

「あら、見て分からないかしら? 暇ではないわ。りっちゃんとお茶を楽しんでいるところよ」

 どう見ても、暇だろうと山本は思った。

「僕、強くなりたいんです! 師匠、お願いします」

 紅にやんわり断られたが、山本は食い下がった。

さかき、上原兄弟を呼んでちょうだい」


あかき神、何なりとお申し付けください」

 上原兄弟が揃って頭を下げた。

「助手君、紹介するわ。上原兄弟よ。兄はまこと、弟はみのる。二人合わせて誠実よ」

 紅が紹介すると、

「お笑いコンビですか?」

 と山本が聞いた。

「違うわよ! 助手君、彼らは優秀な戦士よ。今日は、上原兄弟に戦い方を教えてもらいなさい」

「そうでしたか。失礼しました。山本やまもと貴典たかのりです。よろしくお願いします」

 山本は上原兄弟にお辞儀をした。紅の紹介のせいで、彼らに失礼なことを言ってしまったことを反省しながら。

「それじゃ、助手君をよろしくね。くれぐれも、ように」

 紅の忠告に、山本が恐怖を覚えたのは言うまでもない。


 こうして、上原兄弟との特訓が始まった。

 紅と四之宮は、その後も一時間ほど、まったりと過ごした。


 二時間ほどの特訓が終わったころ、山本は瀕死の状態になっていた。

「今井さん! 大至急来てちょうだい。助手君が大変なの!」

 紅の連絡を受けて、今井が駆け付けた。

「これは一体、どうしたんですか!」

 山本が危険な状態であることは、一目でわかった。すぐに、治癒の処置を行うと、傷口はふさがり、なんとか一命は取り留めた。

「ありがとう、今井さん。榊、医者はまだかしら?」

「もうご到着しており、別室で待機されております」

「みんな退室してちょうだい。あとは医者に任せるわ。榊、助手君の服を準備しておいて。このままじゃ、帰らせられないわ」

 

 医師に診てもらう前に、榊が山本の身体を洗い、服を着替えさせていた。さすがに、あの状態を見せるわけにはいかなかった。


 それから一時間ほど経つと、山本が目を覚ました。服装が変わっている事と、傷が治癒している事に気が付いた。

「よかった、目を覚ましたようだね? 貧血みたいだね。ゆっくり起き上がるといい」

 目の前には、白衣を着た医師が座っていた。

「あの、僕は……」

 医師がいにしえの者ではないと分かると、山本は口をつぐんだ。自分に起こったことは、話すべきではないと悟った。

「急に倒れたから、覚えていないんだろうね? びっくりしたよね」

 医師にどんな説明をしたのだろう? と山本は考えていた。


「あら、起きたようね。良かったわ。お医者様、ありがとうございました。後はもう大丈夫ですわ。ご苦労様」

 紅は、部屋へ入るなり、医師に向かってそう言った。続いて入って来た榊が、

「急にお呼び立て致しましたのに、お越し頂けて、大変助かりました。山本様もだいぶお加減が良くなったようです。これも、先生のおかげでございます。お礼を致しますので、どうぞこちらへ」

 さすが、ベテラン執事。主人の失態を、上手く補うのであった。

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