第45話
無事に写真撮影が終わった。
「お疲れさまでした。いい写真が撮れました。アルバムにして後日お渡し致します」
「ああ、頼むよ」
藤堂は満足していた。
芸人達には、社長からアルバイト代が渡された。
「すみません。笑わせる事が出来なかったのに……」
と芸人たちは申し訳なさそうに言った。
「いや、いや。君たち、本当に面白かったよ。今日は楽しませてもらった。これは僕からのギャラだよ」
藤堂がそう言うと、従者の男が芸人たち一人ずつに、封筒を手渡した。それには少し厚みがあり、数枚の札が入っていることを察した。
「いえ、こんなに受け取れません」
これにはさすがに驚き、お金に困っていながらも、受け取るには気が引けた。
「僕のほんの気持ちだよ。受け取らないのは、逆に僕に対して礼を失すると言う事になるんだよ。素直に受け取ってもらった方が、僕も嬉しいよ」
そんな藤堂の心意気に感動した芸人たちは、なぜか涙を流した。
「おい、おい。泣かないでよ。僕は君たちを応援したいだけなんだからさ。困った事があったら、いつでも僕を頼ってよ」
藤堂が言うと、従者が二人に何かを手渡した。それは藤堂のプライベートな連絡先だった。
芸人二人はそれを受け取ると、藤堂がお金持ちのただの道楽で、彼らに情けをかけたのではないと知る。
「ありがとうございます」
芸人の二人は、最大限のお辞儀をした。
こんな風に、藤堂の何気ない行為によって、熱い信頼が生まれるのであった。
一人、取り残されたように佇む今井は、まだこの状況を把握してはいなかった。
「あのー。僕は何のために呼ばれたのでしょう?」
今井の質問はむなしく聞き流された。
「さてと、そろそろおなかが空いた頃だよね。紅は何が食べたい?」
藤堂がそう言ったとき、すでに西日が空を赤く染めていた。
「りっちゃんは、何が食べたい?」
紅にとって主体はあくまでも四之宮で、他の誰の意見も受け付ける気はなかった。
「私は何でもいいです」
四之宮は組織で育ち、師の教えである、自分の意見は言うべきではないことを頑なに守った。
「味が濃いものと、薄いもの、どちらが好き?」
紅は質問を変えてみた。
「濃い方が好きです」
四之宮が答えると、
「それじゃ、中華なんてどうかしら?」
と紅が言うと、四之宮の顔が、ぱっと明るくなった。どうやら、中華料理が好きなようだ。
「パパ、中華料理に決まったわ」
「如月」
藤堂が言うと、
「はい」
と二人の声が同時に返事をした。
「ごめんね。
そう言って、藤堂は影のようにひっそり立つ従者に目を向けた。
「失礼しました」
また二人同時に言って、如月父と、娘の如月舞が目を合わせた。
「藤堂様、何名で行かれますか?」
如月父が言うと、藤堂は、ここにいる者たちを数え始めた。紅、如月舞、四之宮、藤堂、如月父、社長、芸人二人、今井。
「九人だね」
「すみませんが、僕はまだ勤務中なので、遠慮させていただきます。佐久間さんも店には入れませんしね」
今井はそう言って、黒猫佐久間を見た。
「そうか、それは残念だね。また、非番の時にでも誘うよ」
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