第46話

 食事を終えて、くれないたちは屋敷へ帰った。

「お帰りなさいませ」

 さかきが出迎えた。

「あなた何者? 榊をどこへやった?」

 榊の姿をしたそれは、ぐにゃりと歪み、知らない男の姿になった。

「やはり、騙せなかったか」

 そのセリフを吐いた直後に、水分身みずぶんしんは、紅の炎で蒸発した。

「あたしが怖くて、姿を隠しているのね。情けないわ」

 紅が言うと、男はすぐに姿を現した。

「何が目的か知らないけれど、勝手に屋敷に入って来るような礼儀知らずには、お仕置きが必要だわ」

 紅は風を使い、男を外へ放り出した。地面に転がった男はすぐに立ち上がり、紅と対峙した。

「こんな小娘に、弟はやられたのか」

「あら、あなたの弟なんて知らないわ」

「風使いの男だ。昨日殺された。身体が引き千切られていた」

「あれは、お兄ちゃんが殺ったのよ。まあ、お兄ちゃんが殺らなければ、あたしが殺っていたけれどね。可愛いりっちゃんに怪我をさせたんですもの。赦せないわ」

「弟を殺された恨み、晴らさせてもらうぞ」

 水使いの男は、そう言って紅を攻撃した。早くて鋭くて、突き刺さるように、幾つもの水の線が飛んでくる。それはウォータージェットのように、物に穴を開け、切断していった。

 紅はその攻撃に苦戦していた。触れれば身体は簡単に切断されてしまう。紅は土の能力で敵の足を捉え、風の渦で身体を捩じ上げた。水使いの攻撃は止み、苦悶の表情でうめき声を上げている。

「あなた、なかなかやるわね。りっちゃんを虐めた人は赦せないけど、兄があなたの弟を殺してしまって、ごめんなさいね。兄弟愛のある人を殺すには忍びないけれど、組織の者は殺すと決めたのよ」

「何の話だ? 組織ってのは?」

「あら、知らないの? あなたの弟が言っていたわ。『夜明け』という、いにしえの者の集まった組織よ」

「あの、変な宗教団体か? 『白き神』を崇めている……」

 紅は、男から話しを聞くために、少し風を緩めた。

「あら、あなたは組織の者じゃないの?」

「俺は、弟をあの怪しげな宗教団体から救うために、色々手を尽くしてきた。何度も戦ってきたんだ。それなのに、あんな風に無残に殺されるなんて……」

「それは、あたしたちのせいじゃないわ。組織を恨むべきよ。あなたの弟が、あたしたちを殺そうと攻撃してきたのも、組織の命令だもの。あなたがかたきを討つべき相手は『夜明け』よ」

 紅が言うと、男は悔しそうに顔を歪めた。

「あなたの弟、まだ精神が残っているわ。身体はどこにあるのかしら?」

「俺が保管している」

「それなら、まだ、間に合うかもしれないわ。弟を連れてきて。蘇生を試してみる」

 紅の言葉に、水使いの男は驚いた表情で紅を見た。

「それは本当か? 望みがあるなら、あんたに託す」

「保存状態は?」

「保冷剤で冷やしている」

「急いで連れてきて。腐ってしまったら蘇生できないわ」

 紅はそう言って、男の拘束を解いた。

「その前に、榊はどこかしら?」


 榊は拘束されていたが無傷だった。相手が古の者と分かると、抵抗はしなかった。賢明な判断だった。

「如月、りっちゃんのお世話を頼むわ」

 如月は言われたとおり、四之宮を部屋へ連れて行った。


「今井さん、大至急、屋敷へ来てちょうだい」

 紅は、またもや今井を呼びつけた。本日二回目である。

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