第43話

 三人はショップを出て、近くにあったフォトスタジオに入店した。

「今から写真を撮りたいのだけれど、いいかしら?」

 受付の女性店員に聞くと、

「ご予約は承っておりますでしょうか?」

 と尋ねられた。

「いいえ。予約はしていないわ」

「大変申し訳ございませんが、ご予約いただいてから、お越し頂けますでしょうか?」

「あら、困ったわ。今、写真が撮りたいのに。どうしようかしら? 予約してから、また来るなんて面倒くさいわ」

「大変申し訳ございません」

 女性店員は、面倒な客だなと思いながら頭を下げた。そこへ、

「やあ、くれない。写真を撮りに来たのかい?」

 藤堂が現れた。

「パパ! 何しに来たのよ」

「紅が近くにいるから、夕ご飯に誘おうと思ってね」

 藤堂はスマホの位置情報を入手していた。

「ストーカー」

 紅はあきれた様子で言った。

「そうだ、家族写真を撮ろう。ねえ君、準備してよ」

「ご予約は承っておりますでしょうか?」

 女性店員は、張り付いた笑顔で尋ねた。

「予約はしていないよ」

 また、面倒な客が一人増えたとうんざりしながら、

「大変申し訳ございませんが、ご予約を頂いてから、お越し頂けますでしょうか?」

 女性店員は、頭を下げた。下を向いた顔には苛立ちが伺える。それに如月きさらぎは気付いたが、こんなやり取りはいつもの事だった。


「パパ。あたしたちも、今そう言って断られたばかりよ。他の店にするわ」

 どうせ、どこの店に行っても、予約なしでは断られるのが当たり前だと、女性店員は思った。

 藤堂はスマホで誰かに電話をかけた。

「あのさー。今から写真を撮りたいんだけれど、いいかな? 今いるのは……」

 話しながら、表へ出て、場所の説明をしているようだ。十分ほどして、タクシーで現れたのは、ダンディな中年男性。

「やあ、来てくれてありがとう」

「いえ、いえ。藤堂様にお声をかけられたら、何を置いてもはせ参じますよ」

「はははっ。侍みたいなセリフだね。それじゃ、さっそく準備してよ」

 男性は、女性店員に、

「今から、出来そうかね?」

 と尋ねた。

「いえ、ご予約でいっぱいです」

 女性店員は、この男は何者なのだ? また、面倒な人が増えたとうんざりした。その時、騒ぎに気付き、奥から男性店員がやって来た。

「社長! どうされましたか? 何かありましたか?」

 男性店員は、何かミスをしたのではないかと、ハラハラしていた。

「いや、そうじゃないんだ。今日はVIPのお客様がお越し下さったのでね。でも、ここは予約でいっぱいなようだから、私の特別スタジオへご案内することにするよ。すみません、藤堂様。予約でいっぱいなようでして、少し移動していただきますが、上級のお客様のためのスタジオがありますので、そちらにご案内いたします」

「そうかね。分かったよ」

 藤堂は後ろに影のように控えていた従者に、

「車を呼んでくれ」

 と言った。ほどなくして、フォトスタジオの前に、黒いロールスロイスが止まった。

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