第38話

 外の騒々しさに、四之宮が起きて、窓の外を眺めている。その時、部屋の戸がノックされ、

「四之宮様、お目覚めでしょうか?」

 タイミングよくさかきが声をかけた。

「朝から何もお召し上がりになられていらっしゃいませんでしたので、軽いお食事をご用意致しましたが、入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 四之宮から返事が返って来た。

「失礼します」

 榊はワゴンにティーセットと、クロワッサン二個、スープとサラダ、ベーコンとスクランブルエッグといった、朝食のような料理を運んできた。

「他にもご所望とあればご用意致します」

「いえ、これだけでいいです。ありがとうございます」

 四之宮はまだ緊張しているようで、言葉も表情も硬いままだった。

「では、失礼します」

 榊はそう言って下がった。


 四之宮は、あたたかいスープを口にした。くれないが自分を助けに来てくれたこと、傷を癒し、柔らかなベッドへ寝かせてくれたこと、そして今、あたたかなスープを飲めることが嬉しくて、いつの間にか四之宮の頬を涙が濡らしていた。


 そこへ、騒々しい足音と、榊の声が聞こえて来た。

「紅様! 四之宮様はまだ傷が癒えておりません。そっとして差し上げて下さい」

 と榊が四之宮を気遣っていたが、紅は聞く耳持たずで、

「りっちゃん! 起きたのね」

 いきなり戸を開けて入って来た。四之宮は驚いたが、これが紅なのだと早くも悟った。こんな私に甲斐甲斐しく世話を焼く変わった人。

「はい、起きました」

「あら、お食事中にごめんなさいね。あたし、そばにいるから、ゆっくり召し上がれ」

 紅は可愛い四之宮を見ているだけで癒されていたが、見つめられる四之宮は食事がし辛かった。

「紅様、四之宮様には栄養が必要ですが、紅様に見つめられていては、食事が喉を通りません」

「あら、それは困るわ。それじゃ、あたしは部屋から出るわ。ちゃんと食べるのよ」

 食事の邪魔をしておいて、しっかり食べろとはよく言ったものだと、榊は心の中で思ったが、口には出さなかった。


 篠崎指導による、山本の特訓は終わったようだ。信者たちも役に立ったようで、篠崎も満足げだった。

「助手君の特訓は、毎週火曜と木曜の四時から六時。ただし、学校行事やテストがある時はお休みよ」

 篠崎に山本のスケジュール表のコピーを渡した。こうして、篠崎は山本の指導を担当することとなった。

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