第三章

第37話

 『紅き神』降臨。


くれない様、これはどういう事でしょう?」

 常に冷静なさかきだが、負傷したいにしえの者たち十名を連れて帰って来たのを見て、驚きを隠せなかった。

「まずは、りっちゃんの手当てが最優先だわ」

 紅は榊の質問には答えず、今井にそう言った。

「そうですね」

 紅の言った事を今井は理解した。光の能力で怪我を治すという事だ。傷だらけの四之宮を応接間のソファーへ寝かせると、今井が四之宮の身体に手をかざした。すると、その手からオーラのような柔らかな光を発し、それは四之宮の身体を覆った。しばらくすると、光は今井の手に戻るように消えた。

「りっちゃん、大丈夫?」

 四之宮の反応は無かった。

「しばらく休ませましょう」

 そう言って、今井が、四之宮を抱きかかえ、二階の客間のベッドへ寝かせた。


「さあ、あとは信者たちの治療をお願い」

 『紅き神』の信者たちはエントランスに置き去りにしていて、榊は彼らを訝し気に見張っていた。

 紅と今井が来ると、信者たちは泣きながら神へかしずく。

なんじら、眼を閉じ、我の恵みを受けよ」

 信者たちは目を閉じると、今井の光に包まれた。

「おお! 神よ!」

 これでは、怪しげな宗教のようだと榊は思った。信者たちの怪我は治癒し、『紅き神』をさらに熱狂的に崇めた。

「騒々しいぞ。慎め! 汝らには修業が必要なようだ。我の祖父、中臣弘道の指導を受けよ」

 紅はそう言って、弘道の住所を書いた紙を渡した。妄信する信者たちをていよく追い払うことにしたようだ。


 その日の夕方、山本が紅の元へやって来た。信者たちはまだ、屋敷内にいた。

「師匠、あの方々はいにしえの者ですよね? どうして、こんなに集まっているんです?」

 紅は簡単に説明した。

「なるほど。そうだったんですね。組織ですか~、厄介ですね」

 山本は自分事のように言った。

「あら、助手君には関係ないわよ。あなたのような未熟者に出る幕はないわ」

 紅にそう言われて、山本は反論した。

「師匠、僕に戦い方を教えて下さい。そうすれば、僕も立派な戦力になります」

「だめよ。子供には危険なことはさせられないもの」

「師匠、お言葉ですが、僕と師匠の歳の差は三つですよ。僕が子供なら、師匠も子供ですよ」

「あら、いつからそんな生意気な事を言うようになったのかしら?」

「僕は元から生意気ですよ。僕だって、役に立ちたいんです。師匠、戦い方を教えてください」

 そんなやり取りをしているところへ来客があった。

「紅様、今井様がいらっしゃいました」


「呼んでもいないのに、どんな御用かしら?」

 今朝早く呼び出され、用事が済むと帰って行った今井だが、呼ばれもしないのに、今度は一体何の用で来たのだろうかと、紅が腕組みして高飛車に尋ねた。

「いろいろと計画を立てなければならないでしょう? 仲間は多い方がいいと思って、彼も誘いました」

 今井が言うと、面倒くさそうに篠崎が入って来た。

「あら、ごきげんよう。お久しぶりね」

「まったく、迷惑なことだが、組織ってのは本当らしいな。ここにいる連中も元は組織にいたんだろう?」

「ええ、でも今はあたしの信者たちよ。明日、おじいちゃんのところへ、修業に行ってもらうわ。彼らは弱すぎるもの」

 篠崎はフンッ、と鼻を鳴らし、その話しには興味がなさそうだったが、山本を見て、少し驚いた顔をした。

「はじめまして、山本です。中臣紅さんの助手をしています。まだ修業中で、何のお役にも立てませんが、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。お前も戦うのか?」

「やめて。この子にはそんなことはさせないわ。まだ子供なのよ」

 紅は山本を庇うように前に出た。

「だが、そいつの目はやる気だぜ。成長しようとしているんだ。あんたはそれを止めるのか?」

 紅は言葉に詰まった。山本がいつまでも子供のままでいるわけではないのだ。危険な目に遭わせたくないという、紅の親心は、彼の成長の妨げとなってしまう。紅は悩んだが、答えは一つしかないことも分かっていた。

「そうね。あなたの言うとおりだわ。助手君、戦い方を教えるわ。彼が」

 紅はそう言って、篠崎を指差した。篠崎は、一瞬驚いた顔をしたが、少しうれしそうに、

「仕方がない。今からやるぞ。少年、ついて来い。それと、紅き悪魔、練習に使える奴も庭に呼べ」

 と言った。

「あら、あたしに命令? まあ、いいわ。信者たちも暇そうだし、行かせるから適当にして」

 紅はそう言って、信者たちを庭に集めた。

「それで、今井さんとあたしは作戦会議ね」

 今井と紅、黒猫佐久間は応接間で会議を始め、篠崎と山本、信者たちは戦い方の特訓を始めた。

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