第36話

「見くびるなよ。まだ、こちら側が優勢だ」

 男はそう言って、仲間に合図した。それに従い、いにしえの者たちが一斉に攻撃を仕掛けて来た。敵の数はざっと数えても十人はいるようだ。四方八方から、あらゆる攻撃がくれないを襲ったが、それを風となって躱し、炎で反撃し、水で敵を捉えた。指示を出した男は、それをただ見ていた。

「高みの見物とは、いいご身分だね。君、僕より強いと思った? 風使い」

 高一郎は、風使いの男の傍らに現れ、渦巻く風で男を捉えた。あまりの強い風に男の身体は千切れそうなほどに捻じれた。

「ぐっ……」

 男は声も出なかった。そして、そのまま身体は引き千切られ、血しぶきが舞った。

 それを見た古の者は怯え、戦いに集中できず攻撃を止めた。

「あら、気が散ったの? あなた達の敵はあたしよ。集中しなさい」

 紅は攻撃の手を止めた古の者たちへも容赦しなかった。ことごとく斃され、その場に転がっていく。

「さあ、覚悟しなさい。忠告も聞かずにここに残ったことは愚かだったわね。万に一つも助かる余地はないわ。でも、ここであなた達に朗報よ。あたしは、あなた達組織の情報が欲しいの。情報提供に協力的な者は始末しないことを約束するわ。さあ、どうするか決めなさい」

 だいぶ痛めつけられ、もう戦う気力など誰にもなかった。圧倒的な強さに、抵抗すら無意味だと悟った。

「ここで始末されるか、組織に消されるか、私たちにはどうせ、生きる道はない。情報提供したあと生かされても同じことだ」

 彼らもまた、四之宮と同じことを言った。こんな組織に組し、忠誠を誓う価値などあるのだろうか?

「本当に愚かな者たちだわ。あたし達がその組織を壊滅させるのよ。組織から抜けたって、怖がる必要はないわ。あたしは最強なの」

 紅の強い発言と、威風堂々とした態度に、古の者たちは神の降臨を見たような、羨望の眼差しを向け、信仰の対象とし崇めるようにすがった。

「紅き悪魔、いえ、紅き神よ。私をお救い下さい」

 一人が言うと、他の者たちもそれに従いかしずく。ここに『紅き神』降臨。

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