第35話

 一行が辿り着いた場所は、解体中の廃墟となったビルだった。半壊状態で、出入り禁止になっている。

「ニャー」

「ここだ」

 今井が、佐久間の言葉を伝えると、一行は中へと入っていった。

「まんまと、誘い込まれるとはな。お前らは、相当なバカなんだな」

 そこにいたのは、見知らぬ男。傍らには後ろ手に捕まれて、ぐったりしている四之宮がいた。

「りっちゃん!」

 くれないは叫んだ。

「もう用済みだな」

 そう言って、男は四之宮を捨てるように放った。紅は風となり、四之宮のそばまで瞬時に移動して、彼女の身体を受け止めた。

「赦さない」

 紅は四之宮を抱えて、男に鋭い眼光を向けた。弱いものなら、それだけで怯むが、男は動じなかった。それだけ自信があるようだった。

 男は紅に攻撃した。強い風で吹き飛ばされた紅と四之宮だが、紅は軽く身を翻すと、四之宮を抱え、今井のそばへ瞬時に移動した。

「僕の妹に手を出すなんて、許せないね」

 高一郎が風となり、男の目の前に移動したが、男に喉を掴まれた。

「風使いか。俺も風だ。お前の能力は俺には通用しない」

 高一郎は、苦悶の表情で、うめき声を上げた。

「黒猫ちゃん、りっちゃんを守って」

「ニャー」

 黒猫佐久間は『任せろ』と言った。


「お兄ちゃんに手を出すなんて、あたしが赦さないわ」

 紅は怒りを露わにすると、その背に炎を纏う。それはまるで、不動明王のようだ。

「これが、噂の紅き悪魔か。怖いねぇ」

 男はふざけたように言った。

「あら、怖いのはこれからよ。覚悟しなさい」

「俺が何の対策もせずに、お前らを誘い込んだと思うなよ。周りを見てみろよ」

 そこには、多くのいにしえの者たちが集まっていた。

「俺たちの邪魔はさせないぜ」

「あなた達、何者なの? 目的は何?」

「組織の名は『夜明け』能力者の集まりだ。目的は我々が世界を征服することだ」

「あら、そうなの? あなたも愚かね。べらべらとお喋りをして。お兄ちゃん、いつまで遊んでいるのよ」

 紅が高一郎に声をかけると、

「もうちょっと、楽しみたかったんだけどな。まあ、いいか」

 そう言って、風となって男の手からすり抜けた。

「ねえ、ここに集まっているあなた達、あたしに始末されたくなかったら、逃げてもいいわよ。一度しか忠告しないけど」

 紅がそう言うと、脅えた者たちが、慌てて逃げていった。

「あら、半分になったわね」

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