第34話

 四之宮は、晩餐会のあと、気疲れしたのだろう、客間のベッドへ横になると、すぐに眠りについた。くれないは母のように優しく見守ると部屋を出た。



 翌朝、四之宮が眠る客間の戸を、さかきがノックして声をかけた。

「四之宮様、お目覚めでしょうか?」

 返事がなく、起きている気配もない。榊は、

「失礼します」

 と声をかけて、ドアを開けた。


「え? りっちゃんがいなくなった⁈」

 紅は驚いて、大きな声を出した。

「はい。部屋の窓が開いていたので、窓からお出かけになられたのかと……」

「どこへ行ったのよ? 帰って来るの? どうしたらいいの?」

 紅は部屋の中を行ったり来たり、落ち着かない。

「今井さんを呼んで。りっちゃんを早く見つけないと、組織の連中に殺されちゃうわ」


 ほどなくして、今井と黒猫佐久間がやって来た。

「りっちゃんを探して!」 

「もちろん、探しますが、手がかりがないと、探しようもありませんよ」

「ニャー」

 黒猫佐久間が、何か言っている。

「それはすごいですね」

「黒猫ちゃん、なんて言っているの?」

「猫の嗅覚は優れていて、匂いを辿ることが出来るそうです。四之宮さんが、自らの足で歩いて行ったのならと言う事ですが、連れ去られたとなると、それも難しいとのことです」

 佐久間の言葉を、今井が通訳した。


 その後、黒猫佐久間は猫探偵よろしく、クンクンと四之宮の寝ていたベッドの匂いを嗅ぎ始めた。人間の佐久間がやったら、ただの変態である。

「ニャー」

「匂いは覚えた。この窓から、自らの足で出て行ったようだ。匂いを辿るぞ」

 今井が、黒猫佐久間の言葉を伝えた。紅はうなずき、今井と共に、黒猫のあとについて行った。四之宮は二階の窓から飛び降りたようだが、一行は階段を下りて、玄関から表に出た。

「ニャー」

 黒猫はすたすたと先を行く。


「何だか、面白そうなことをしているね」

 そこへ、高一郎が風のようにやって来た。

「面白くなんてないわ! りっちゃんがいなくなったのよ。早く見つけないと、殺されちゃうわ」

「そうなの? 僕は気にならないけど。面白い事には参加するよ」

 高一郎は笑顔で言った。

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