第30話

 くれないには、黒猫の言葉が分からなかった。


 そこへ、遅れて来た今井は、苦しそうに肩で息をしていた。

「すみません、遅くなりました」

「今井さん、あなたがいないと、黒猫ちゃんの言葉が分からないわ。早く通訳して」

「分かりました」

 今井は、息を整えて、黒猫佐久間の言葉を待った。

「ニャー」

「あなたが捉えたいにしえの者は、今まで人を殺めて来た。始末に値する。とのことです」

「あら、そう。じゃ、始末するわね。悪しき者よ、紅蓮の炎に舞い散れ」

 紅が左手を振ると、土壁の中に捉えた古の者は炎に焼き尽くされた。



「ねえ、これも殺していいよね?」

 高一郎は、風で捉えた少女の苦悶の表情を見ながら微笑んでいる。

「あら、まだ意識があるようね」

 そう言いながら、紅が近付いて行った。

「ニャー」

「殺すな。と言っています」

 今井が、佐久間の言葉を伝えた時、水使いの少女は意識を失った。

「あら、気絶したわね」

 高一郎は、風を止めた。少女がそのまま地面に落ちるところへ、駆け寄った今井が受け止めた。

「まあ、可愛らしい顔をしているのね」

 紅は可愛いものが好きであった。


 少女は屋敷の応接間のソファーへ寝かせた。

「ねえ、黒猫ちゃん。この子、殺さなくてもいいのよね?」

「ニャー」

「生かして、話しを聞く。この少女が単独で行動したとは思えない。もしかしたら、我々の知らない組織が動いているのかもしれない」

 黒猫佐久間の言葉を、今井が通訳した。


「それで、その組織が僕の妹を狙っているかもしれないわけだね。やっぱり、この子殺そうよ」

「だめですよ。まだ、何も聞けていないんですから」

「話を聞いたら、殺そうよ」

「話を聞いても、殺さないわ。能力を無力化したら、危険はないでしょ?」

 可愛いものを消されるのを、何とか阻止したい紅が反論した。

「ニャー」

 佐久間が何か言っている。

「なにかしら? 黒猫ちゃん」

 それに、今井が答える。

「組織があると仮定するならば、こんなに弱い刺客を送り込むのに、策略があるはずだ。今井、何か感じ取れないか?」

「そうですね。彼女の中に、もう一つの力を感じます」

「ニャー」

「それが何か分かるか?」

「そうですね。水分身ですかね?」

「それじゃ、この子も操られていたの?」

「それは違います。水の珠のようなものが、彼女の中にあって、それは大きなエネルギーを持っています」

「それって、どういう意味かしら?」

「爆弾です」

「ニャー」

 黒猫の言葉を、今井が通訳する。

「少女ごと、俺たちを吹き飛ばす気だな」

「そうはさせませんよ」

「ニャー」

「はい。分かっています。僕にしか出来ませんからね」

 今井は、佐久間の言葉を通訳せずに答えた。

「え? なに? 今井さんにしか出来ない事って」

 紅は不安げに今井を見たが、

「大丈夫です。と言いたいところだけれど、彼女の命までは保証できません。話しを聞くどころか、このままだと、爆発に巻き込まれるので、爆弾を取り除きます」

 紅は、まだ言い足りないようだったが、言葉を飲み込んだ。今井が、精神の集中を始めたのだ。


 今井の手から光の触手が伸びて、少女の口から入っていった。しばらくするとそれは水の珠を掴んで口から出て来た。今井がその球を光で包むと、光の粒となってはじけ飛んだ。

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