第29話

 翌日、くれないが午後のお勤めを終えると、屋敷へ予定のない来客があった。


 さかきが対応に出たが、いきなり榊を突き飛ばし、侵入してきた。如月きさらぎが気付き、即座に相手の背後に回り、腕を取り拘束しとようとしたが、見えぬ力で吹き飛ばされた。


「あなた、何の御用か知らないけど、うちの者に随分なことをしてくれるじゃない」

 紅が現れると、榊と如月はすでに起き上がり、戦闘態勢を取った。

「榊、如月、これはいにしえの者よ。あなたたちには敵わないわ」

 紅が言うと、二人は屋敷の奥へ避難した。


 その時、強い風が吹き、古の者が外へ向かって吹き飛ばされた。

「僕の妹に手を出すなんて、許せないね。消えてくれる?」

 倒れた古の者に、続けて攻撃する高一郎。

「お兄ちゃん!」

「やあ、紅。元気だったかな?」

「ええ、もちろんよ。お兄ちゃん、学校はどうしたのよ」

「体調不良で早退したよ。紅の屋敷に古の者が現れたのに気付いてね」

 古の者は体制を整えて、攻撃を仕掛けてきた。それは地面を這い、高一郎の足を捉えたが、高一郎は風となってすり抜けた。古の者の能力は土と風。

「お兄ちゃんに手を出すなんて、あたしが赦さないわよ」

 兄想いの紅の怒りに触れた古の者は、紅の容赦ない炎の攻撃を食らう。相手は土壁で防御したが、紅はすでに相手の背後に移動していて、土ドリルで背中を突き刺した。手ごたえはあったが、敵はすぐに風となって移動した。背中に傷を負ったが、出血量は少なかった。傷は浅かったようだ。


「あら、残念。仕留め損ねたわね」

 古の者は、何かに突き動かされるかのように、ただ無言で、紅たちに襲い掛かる。

「何よ、あなた。不気味だわ」

 紅の攻撃に傷付きながらも、攻撃の手を休めない。痛みはないのか、感情はないのか、まったく意思が感じられない。まるで傀儡くぐつのようだ。


「こいつは操り人形だね。誰が操っているんだろう? どこにいるのかな?」

 高一郎はそう言って、風となり辺りを探り始めた。

「おや、おや。こんなところに隠れているなんてね。君は卑怯者だね」

 高一郎は、隠れていた古の者を見つけると、薄く笑いながら、渦巻く風の中に捉えた。

「女の子だからって、僕は手加減しないよ」

 相手は、紅と同じ年頃の少女だった。

「君は水使いか。あれの中に水分身みずぶんしんを入れて、操っていたんだね。残酷だよ。自分は安全なところで傷つかずにいるなんて、卑怯だねぇ」

 水使いの少女は、苦悶の表情を浮かべ、涙を流した。それでも、高一郎は力を緩める事はなかった。


 紅の前では、傀儡となっていた古の者が倒れていた。

「どうしようかしらね? 操られていただけとなると同情するわ。始末するか、判断に迷うわよ」

 そう言いながら、土壁でそれを捉えた。意識のない古の者は、抵抗すらできなかった。

「さてと、あれは始末に値するわよね? いいのよね。始末して」

 紅は独り言のように言ったが、その足元にはいつの間にか黒猫がいた。

「ニャー」

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