第14話

 紅の今日のお勤めが終わり、午後の散歩に出かけると、如月は黙ってついて行った。行き先は昨日行った商店街だった。黒スーツの男たちが金物店に入っていくのが見えた。

「今日はどうしようかしら? なんて言って追い返そう?」

「紅様、とりあえず入店してみましょう」

 如月は、彼らが悪ではないことを紅に気付いてほしかった。

「そうね。行きましょう」

 金物店へ入ると店は狭く、黒スーツたちで満員だった。品物のほとんどが無くなっていて、男たちは残りの品物を買っていた。会計を済ませると、店主が黒スーツの一人に言った。

「ありがとうございました。これで、もう売る物が無くなりました。もう閉店ですね」

 少し目を潤ませていたが、店主は微妙に笑みを浮かべている。悲しんでいるのか、悔しさなのか紅には分からなかった。

「長い間、ご苦労様でした。第二の人生が楽しみですね」

「本当に、ありがとうございました」

 その会話で、紅は何かを悟ったように、黙って店を出た。


 無言のまま商店街をあとにした。

「分からないわ。あの男たちは本当の客として毎日来ていたの? 最後まで店の売り上げに貢献していたの? それはなぜ? 毎日嫌がらせに来ていたんじゃなかったの? 如月、あなたはどう思う?」

 紅が初めて如月に意見を聞いた。

「彼らは悪人ではありません。紅様も、それに気づかれたのでしょう? 土地の買取りは違法ではありませんし、無理やり取り上げるわけでもありません。彼らは法律を守り、店主を守り、要望を聞きながら、最後までこうして支えてきたのです。店主も納得して立ち退いていくのです。紅様が思うほど、この世は悪くはありませんよ」


 この日は何もなく、紅もおとなしく屋敷へ帰った。紅の標的となる者はいなかったから、今夜も殺戮は起こらないだろうと、如月は気を抜いていた。


 その夜、紅は河川敷に来ていた。外の風に吹かれたかったのだ。自分の正義を否定する者は、自分にとっての悪であり、敵なのだ。如月を敵とは思いたくはなかった。自分の信じる正義が揺らぐ。紅の中の古の者がその心の隙を突こうとしたが、

「あなたはあたしに縛られている。どんなに足掻こうとも逃れられない。でも、もう要らない。消えなさい」

 その存在を消され、火を操る能力は紅に奪われた。


 その時、紅は他の能力も引き寄せる事となり、全ての能力を手に入れた。


「中臣紅、お前を始末する時が来た」

 佐久間がそこに現れた。今井と高一郎も一緒だった。

「あら、あなたじゃあたしに敵わないわよ」

「それはどうかな?」

 佐久間は土を操る者。紅の身体は土で覆われた。しかし、紅は水の能力を使い、土を溶かした。泥となった土を佐久間が操り、再び紅を襲ったが、炎を操り、泥は乾きさらさらと舞った。すかさず佐久間は紅の足を土で捉え動きを封じたが、紅は風となり身体は解き放たれ、次の瞬間、佐久間の背後を取った。

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