第7話

 今井は自分の事を、佐久間に話した。


 佐久間さんに初めてお会いした時は、正直、怖かったんです。なんで、普通の人間として生活しているんだろうって。僕は人ではない存在が分かるんです。それは子供の頃からで、初めてそういう者が存在するという事を知ったのは、僕が九歳の時でした。近所の神社の神主さんに会ったとき、その中に人ではない者が存在している事に気がついたんです。僕はまだ子供でしたから、それを素直に神主さんに言いました。そしたら、悲しい目で僕を見て、

「それは特別なことだから、他の人に話してはいけないよ」

 と言ったんです。

「どうして?」

 と聞くと、

「他の人には分からないから。それと、その存在が善とは限らないからだよ」

 と言ったんです。善ではないなら、悪かもしれない。でも、神主さんの中にいる者を、僕は怖いとは感じませんでした。

 神主さんは教えてくれました。中にいる存在は、神降ろしによって降ろされた神だと。不思議な話しだけれど、僕はそれが真実なのかもしれないと、その時は思いました。


「それで、お前は神を信じたと言う事か?」

「子供の頃は信じましたよ。でも、今は分かりません。それがどんな存在なのか。あなたが何者なのか。紅さんの中にいるのが何なのか」

「何者でもないさ。俺はただ存在する者。生まれた時から、俺は俺だ。そして、生まれる前から、ずっと昔から、俺の精神は存在していた。それを、いにしえの者と呼んでいる」



 翌日、佐久間たちは紅の居る屋敷を訪ねた。

「すみません。予約した今井ですが」

 榊が受付の対応をし、二人の顔を見た。昨夜の刑事だと気づいたが、表情を変えることなく、紅の待つ部屋へと案内した。

「どうぞ」

 紅が言うと、二人は部屋へと入った。いつもなら榊は案内までで、部屋へは入らないが、今回は違った。紅の隣に黙って立った。紅もいつもと違う榊の行動に気付き、何かあると察した。

「あなたたち刑事ね。何を聞きたいのかしら?」

 紅はわざと彼らの口から言わせようとしていた。

「夕べ、お会いしましたよね。夜の街を一人でいたところを、私たちが君を補導した。覚えているかな?」

 佐久間は、子供を相手にしているような口ぶりで言った。

「いえ、覚えていません。榊から夕べの事は聞きました。あたしは無意識に、夜、徘徊することがあるんです。でも、あたしは寝ているので、どこへ行ったか、何をしていたのか分かりません」

「では最近、人が焼かれる事件が複数起きていることをご存じですか?」

「ええ、テレビのニュースで知りました」

「それだけですか? 他にご存じの事はありませんか?」

「何を聞きたいんですか?」

「ご存じないという事でよろしいですか?」

「知っていると答えたら、何を知りたいの?」

「全てです。犯人は誰か。犯人はどうやって彼らに火をつけたのか。そして、なぜ、彼らを殺したのかですよ」

「あたしが犯人だとでも言うのかしら? あなたたち刑事は、証拠もなしに犯人とは断定できない。でも、疑いのある人物に鎌をかけて、口を割らせるのよね。あなた、あたしの中の神と対峙する勇気はあるようね」

 紅は意味ありげな笑みを浮かべた。

「紅様、もうお時間です。お客様、今日はこれで終わりですので、お帰り下さい」

 榊に促され、佐久間たちは部屋を出た。

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