第6話

  夜になると、神はまた繁華街へと出かけて行った。それは榊と如月も気付いているが、神の行動は止められなかった。

 夜の街の煌びやかな灯りの届かない場所に神はいた。そこへ音もなく近付く者たちがいた。

「やはり来たな」

 男はそう言って、紅の首を片手で絞めて持ち上げた。喉を掴まれて言葉が出ないのだろう。呻く声だけが漏れ聞こえた。

「あまり目立つことをするなよ。おかげで悪魔に目をつけられた」


「やめろ、篠崎!」

 そこへ佐久間たちが現れた。篠崎は紅から手を放すと、黒服の男に、

「行くぞ」

 と声をかけて去って行った。

「待て、篠崎!」

 今井が追いかけようとすると、

「追うな!」

 と佐久間が今井を制した。

「はい」

 今井は素直に従った。

「大丈夫か?」

 佐久間が紅の身体を起こそうとすると、

『我に触れるな』

 と断られた。

「すまない」

 佐久間は年頃の少女に触れたことを謝った。

「しかし、君はまだ子供だ。保護者に連絡しないといけない。一緒に署まで来てくれるかな?」

 優しく言うと、神はおとなしくついて行った。


「困ったね。名前も住所も言ってくれないとは。保護者の方も心配していると思うよ」

 佐久間は困り果てていたが、生活安全課の女性警察官が身元を確認できたと報告してきた。

「中臣紅(ナカトミ クレナイ)現在十六歳。保護者は藤堂総一郎。住所は……」


「最近は便利なものだな。登録さえしていれば、住基ネットですぐに身元が分かる。写真の照合であっという間だ」


「紅、よかった無事で。すみませんでした。お世話になりました」

 藤堂が紅を連れて帰ろうとすると、

「お待ちください。もう少しお話しをお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

 と佐久間が呼び止めた。藤堂は榊と如月も同行させていて、彼らが誰なのか、紅と藤堂の関係と、紅が住んでいる環境を聞かれた。

「そうでしたか。事情は分かりました。お子様は適切な環境下での養育であるということですね。また、紅さんのご様子を生活安全課の者が伺いに行きます。その際、福祉施設の職員も同行となりますが、あまり気になさらないで下さい。お子様の生活状況の確認となります。適切と判断されれば、以後、お尋ねすることはないと思いますので。今回、お子様が夜間徘徊ということで補導となりましたので、今後はお子様の様子に気を付けてあげてください。では、お帰りいただいて結構です。お気をつけて」


 佐久間と今井が表まで出て、藤堂たちを見送った。

「佐久間さん。気付きましたか?」

「何にだ?」

「紅さんの中にいる者の存在です」

「お前……」

 今井の言葉に、佐久間は驚いた。今までの今井はやはり偽りだったのか? 紅に気付いているのならば、俺にも気付いているに違いない。

「今井、気付いているなら忠告だ。もうこれ以上関わるな。俺にもな」

「それは出来ませんよ。佐久間さんが人でないことも最初から知っていました。あの篠崎にしても、黒服にしても。都会には魔物が棲むって本当ですね」

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