第4話

 川沿いを歩く者たちがいた。火柱を見ると、

「あれは何?」

「人が燃えている!」

 三人のうち、若い女が慌てて消防と、警察に通報した。

「まさか、貴典じゃないわよね?」

 中年の女が傍らに寄りそう中年の男に言った。

「分からない。消防が来るまで待とう。僕らにはどうしようもない」

 二人は祈るような気持ちで、火柱を見つめていた。


 しばらくして、消防車、救急車が到着した。しかし、その時すでに炎は消え、黒く焦げた四人の遺体があった。


「早く病院へ」

 一人の少年が無事であることを確認すると、救急隊員が担架を持ち、河原へと走った。その担架に乗せられた少年が、探していた生徒かを確認する間もなく、救急車へと運ばれていった。

 救急車が発進すると、パトカーが入れ違いに到着した。消防隊員が遺体へと警察官を案内した。

「これはひどい。夕べの事件と酷似している。それで、目撃者は?」

「あの三人です」


警察官が三人に近づき、

「すみません。あなた方が通報を?」

「はい。私がしました」

「こんな時間に、ここで何をなさっていたのですか?」

「私が担当しているクラスの生徒が、自宅へ帰らないとの連絡を受けて、ご両親と共に生徒を探していました。この川沿いを歩いていたら、川の方で火柱が見えたので、近づいてみると、炎の中に人影が見えたのす。それで通報しました」

「分かりました。もっと詳しい話しが聞きたいのですが、署までご同行願えますか?」

「いえ、それは出来ません。私たちは生徒を探しているのです。命に係わる事なんですよ。警察の方も一緒に探してもらえませんか?」

「困りましたね。ちなみに、生徒の名前は?」

「山本貴典です。東山中学の一年です」

「年齢は?」

「十三歳です」

「いつから帰ってこない?」

「今、テスト期間中なので、午前で終わって、十二時半には家に着いているはずなんですが、用意していたお昼ご飯も食べていないので、学校の帰りに何かあったのかもしれないです」

「そちらの方々が、ご両親?」

「はい」

「なぜ、何も喋らない?」

「先ほどの焼死体の中に……」

「息子さんがいるかもしれないと?」

「それで、ショックのあまり、お二人とも……」

「一人、無事だった子供さんがいます。確認してみますか?」

「え?」

 その言葉を聞いて、母親が急に顔を上げた。

「先ほど、救急車で運ばれて行きましたよ。東山町立総合病院です。行って確認してみますか?」

「はい!」

 両親そろって返事をした。それに望みをかけた。



 佐久間は、少女に腕を取られ、誘われるままに店へと入っていった。いつもお喋りな若い刑事は、佐久間に言われたとおり、黙ってついて行った。

「お客様ご来店!」

 少女が言うと、

「いらっしゃいませ」

 店の従業員が一斉に言った。若い女や、少女が露出の多い服を着て、客をもてなしていた。

「篠崎はいるか?」

 佐久間が聞くと、黒服の男が音もなく背後に近づき、

「何の御用で?」

 とささやいた。

「悪魔が来たと伝えろ」

 黒服の男は察したようで、音も立てずに奥へと入った。しばらくして、

「では、こちらへ」

 と佐久間たちを奥へと案内した。


 奥の部屋で待っていたのは、どう見ても表の職業の人間じゃない。

「で、何の用だ?」

「聞きたいことがある」

「前置きは要らない」

「こいつらを知らないか?」

「知らんな」

「路地裏の焼死体の身元を洗ってる」

「死んだか」

「知ってるんだな?」

「協力する義理はない」

「行方知れずの少女がここにいる。令状はすぐに出るぞ」

「脅しか? 無事にここを出られるとでも?」

「そっちの脅しは効かねぇよ。務所に入るか、素直に情報提供するか、他に選択肢はないぜ」

 二人の駆け引きに、気が気じゃないのは若い刑事だ。冷や汗をかいて目が泳いでいる。それを黒服の男が見ていた。

「分かった。三人の情報だな。言っておくが、そういう連中は、本名は名乗らねぇ」

 写真の男は、テツ、タカ、ヒロ、と愛称で呼ばれていた。篠崎の店には出入りはないが、半グレ集団、韋駄天のメンバーだという。

「ありがとよ。またよろしくな」

 佐久間はそう言って、部屋を出た。若い刑事もすぐに追いかけるように佐久間の後ろについて行った。


 無事に店から出ると、佐久間のスマホが鳴った。

「佐久間だ……。ああ、分かった。すぐ向かう」

 そう言って通話を切ると、神妙な面持ちで言った。

「これは連続殺人かもしれない。行くぞ今井」

 若い刑事は、初めて自分の名前を呼んでもらえて、嬉しそうに、

「はい!」

 と返事をした。


 佐久間たちが現場に着いた頃には、鑑識がすでに来ていた。

「今度は四人か。ひでぇな」

 川から吹く風で、焦げた匂いが顔にかかる。佐久間は袖で鼻を覆った。今井はまともに嗅いでしまって、吐き気を催していた。

「お前は離れてろ」

 佐久間は焼死体を眺めながら、何か考えている。

「目撃者がいたと聞いているが?」

 佐久間が言うと、

「はい。三人の目撃者がいます。その方たちは生き残りの子供が搬送された、東山町総合病院に行きました」

 最初に来た警察官のうちの一人が答えた。もう一人の警察官は、目撃者と共に病院へ行っていた。

「分かった」

 佐久間たちは病院へ向かった。

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