第23話 魔力測定

わざわざギルドマスターが俺の登録のためだけに派遣してきた娘のシルビィに、俺は試験免除とSSSクラスの授与を告げられた。だが、俺のような人間こそ、ちゃんと試験を受けるべきだと伝えることで、正式に試験を受けることとしたのである。


「お手数をおかけして申し訳ありませんね」


とシルビィが恐縮するが、俺は首を横に振り、


「こういった手順を踏むことも、俺の様な人間には求められているんだ。シルビィが気にするようなことじゃないさ」


俺がそう言うと、シルビィは頬を若干赤く染めて頷くのであった。


はて、なぜ頬を染めるのだろうか?


「おい、シルビィちゃんのあんな表情見たことあるか?」


「いや、っていうか俺の場合、笑いかけてすらもらったことがないんだが・・・」


「くそ、あのやろう・・・救世主だか何だか知らないが調子に乗りやがって・・・」


そんな声が聞こえてくるが、何か勘違いしているのだろう。


俺のような人間が女性に好かれる訳がない。


せいぜい、孤児院の少女たちが親代わりに慕ってくれるぐらいだ。


「えーっと、ご主人様、シルビィさんは孤児じゃありませんからね?」


「ベッドも足りてないですしねえ」


「シーはねえ、3っていう数字が美しいと思うなあ」


などと少女たちが言ってくる。はて、何を言っているのやら?


と、そんなことを話している間にも、シルビィが試験の用意をしてくれる。


テーブルカウンターの上に、透明な水晶が置かれている。


「魔力測定用の水晶です。色が黒に近くなるほど強い魔力を持つと言われています。多少灰色がかればDからCクラス、完全にねずみ色になったらBクラス。そこからさらに黒みがかればAやSとなります。真っ黒ともなると大陸には存在しません」


「そうか、どれ」


「あっ、お待ちください!」


俺が早速手をのせようとすると、シルビィが慌てた様子で俺を止めた。


どうしたんだ?


「その、先程も申しましたとおり、ナオミ様の試験をすることは難しいのです・・・」


「ん? どういうことだ?」


俺の質問に、シルビィは言いがたそうに口を開く。


「先ほども申しました通り、AやS級冒険者ですら、黒みがかる程度なのです。ただ、随分昔に、実験でS級冒険者が10人以上集まって魔力を注いだことがあるそうです。ただその際に水晶は壊れてしまったようでして・・・」


なるほど、そういうことか・・・。


「つまり、俺が水晶で魔力測定をすれば、水晶が壊れてしまうと言いたいんだな?」


「はい、そのとおりです」


うーん、そういうことか。確かに、S級冒険者10人程度の魔力で壊れてしまうような機械では、簡単に壊れてしまうだろう。


「すまないな、俺の力が強すぎるばかりに」


俺が謝罪すると、シルビィは恐縮した態度で、


「い、いえ。我々こそ、まさかこれほどの力をお持ちの方が人類に現れるなど誰も予想だにしていなかったもので、申し訳ありません」


「謝ることはないさ。俺クラスの力をイメージすることが出来ないのも無理はない」


俺はそう言ってから、リュシアたちに向き直ると、


「お前たちやってみるといい。俺に修行の成果を披露してみろ」


と言ったのである。


「は、はい!! 頑張ります!!!」


「見ていてくださいね! エリンだってマサツグ様のお役に立てる力があるって証明しちゃいますから!」


「シーも頑張る~、そしたらよしよしってしてね~」


そう3人の少女は健気に返事をするのであった。


「お、おい、あのSSSクラスのマサツグってやつの弟子の美少女たちが試験をするみたいだぞ?」


「あの師匠の弟子たちだ・・・。とんでもないことになるんじゃねえか?」


「馬鹿。もうエリンって娘の力は味わったばかりだろうが! くそ、ここから生きて帰れれば良いんだが・・・」


俺たちを取り巻きにしている冒険者たちから、そんな声が聞こえてきた。


やれやれ、仕方ない。


もしも魔力の漏れや暴走が起こった場合でも、俺が防いで守ってやることにしよう。


「ナオミ様、この少女たちはもしやあなた様のお弟子様たちですか?」


シルビィが改めてそう聞いてきたので、俺が「孤児院で面倒を見ている少女たち」だと答えようと口を開こうとすると、リュシアたちが割り込んできた。


「大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言われました!」


「あっずるいリュシアちゃん! わたしもわたしも! わたしもお嫁さんにしてあげるって言われました!」


「シーもねー、第3婦人になるって盟約を結んでるんだよ~」


「あっ、シーちゃん、それはご主人様には内緒って!?」


などと騒ぐのであった。やれやれ、子供の頃にお父さんのお嫁さんになりたがると言うが、まさにそれだろう。絶世の美少女達にそう言われるのは嬉しいが、いずれ巣立って行くと思うと何だか切ないものだ。これが父親の心情というものだろうか?


「あ、あいつ、あんな美少女達を3人も・・・」


「くそ、なんて神様はなんて不公平なんだ・・・」


「俺もあんな可愛い子に好かれたい。いや、1億分の1の可愛さでも十分だ」


やれやれ、冒険者たちまで勘違いしているようだ。


そんなんじゃないってのに。


「なるほど、ナオミ様は複数人はOKなタイプなのですね。これなら私にも・・・」


何やらシルビィがぶつぶつと言っているがよく聞こえない。


「はぁ、それよりもはやく試験を始めてくれ」


俺の言葉にシルビィが、


「失礼しました」


と言って早速試験が開始される。


まずはリュシアからだ。


「あまり魔力には自信がないのですが・・・」


「パワータイプだからな。だが確かに俺と比較すればとても小さいものかもしれないが、世間では十分に通用する強さだ。心配するな」


「そ、そうでしょうか。ご、ご主人様にそう言っていただけると勇気が湧いてきました」


そんなことを話ながら手をかざした。


・・・すると、


「そ、そんな!? こ、これでナオミ様より相当小さいって言うの!?」


シルビィが驚きの声を上げる。


「げえ!?」


「ま、マジかよ!!」


「こ、これで弟子の力なら、師匠であるアイツの力はどれほどのものなんだ・・・」


取り巻きの冒険者たちもザワザワとする。


いちいち騒がしいことだ。それほど驚くべき結果ではないだろうに。なにせ、俺のスキルの加護が発動しているのだから、これくらいの結果は普通のことだろうに。


「え、Aクラスか、もしかするとSクラスの魔力です・・・」


そう言ってシルビィが結果を告げる。


再度冒険者たちから驚きの声が上がるが、一方の俺は至極落ち着いた様子で、


「まぁそんなところだろう。リュシア、よく頑張ったな」


俺がそう言うと、リュシアは俺に褒められたのが嬉しいのか満面の笑みを浮かべて頭を差し出してくるのであった。


「おいおい、ご褒美ならナデナデ以外でもいいんだぞ?」


だがリュシアはフルフルと首を振ると、


「ご主人様に撫でてもらうのが一番のご褒美なんです。他には特に欲しいものなんてありません」


などというのである。


やれやれ、まだやはり虐待されていたことがあるせいか、ワガママになれないらしい。


俺のナデナデが一番欲しいものなわけがない。


それくらい俺だってわきまえている。


まあ、また今度可愛い服でも買ってやろう。


そんなことを思いつつ俺が少女の髪の毛と頭の上にちょこんと付いたケモ耳を撫でてやると、リュシアはとろけるような幸せそうな顔をするのであった。


やれやれ、オーバーなことだ。


「つ、次は私! エリンもやりたいです!」


エリンがなぜかリュシアの方を羨ましそうに見ながら声を上げた。


ふむ、これほど試験に乗り気だとは思わなかったな。


「よし、じゃあエリン、修行の成果を見せてみろ」


「は、はい! ご期待に添えるよう頑張ります!! マサツグ様の魔力には到底及びませんが、リュシアには負けませんよ!!」


いつにない張り切った様子で、エリンが水晶へと手をかざした。


すると・・・、


「う、嘘・・・ナオミ様に到底及ばないと言っていたエリンさんの魔力なのに、これほどなんて・・・」


「お、おい、あれってまさか・・・」


「あ、ああ・・・間違いねえ・・・ブラックアウトだ。S級冒険者を何名も集めないと現れねえ現象だよ。あの師匠あっての弟子ってことか・・・」


「だ、だが、弟子であのレベルだとすれば、師匠のあのマサツグってやつは、一体どれだけのレベルなんだ!? 実はSSSレベル以上の力があるんじゃねーのか!?」


まさか、そんな、といった声が俺たちを取り巻く冒険者たちからも聞こえてくるが、俺にとってはエリンの魔力結果は思ったとおりすぎて退屈なぐらいであった。


なにせ俺のスキルの加護があるのだから当然の結果である。


「エリン、よくやったな。S級の冒険者にも引けを取らない魔力だぞ。何かご褒美がいるか? なんでも良いぞ?」


俺がそう言うと、エリンは迷うことなく、


「リュ、リュシアちゃんと同じで頭を撫でて欲しいです!」


と言うのであった。


「おいおい、お前もか? 何だっていいんだぞ? 可愛い服だって、食べ物だって買ってやれるが・・・」


だが、俺のそんな言葉に勢いよく首を横に振ると、美しい金髪の頭を俺にずいっと差し出すのであった。


やれやれ、なんで俺なんかに撫でられたがあるのだろうか?


うん、やっぱり何か遠慮があるに違いない。彼女は暗殺者に狙われて転がり込んできたような経緯もあるからな。よし、今度また美味しいものでも皆で食べに行くとしよう。


俺はそんなことを思いながら、エリンの頭をよしよしと撫でてやるのであった。


「はう~、エリンは幸せです、マサツグ様ぁ」


そんなことをとろけそうな顔で言うのであった。


やれやれ、俺になど撫でられて何が嬉しいのやら。


「はーい、次~、次はシーの番~。わたしもマサツグさんにナデナデしてもらうんだから~、えーい」


そう言ってシーが水晶に手を触れる。


「えへへー、シーの魔力はねー、精霊神だからね~、マサツグさんの加護もあってだけど彼の魔力の何万分の1くらいには肉薄してるんだよ~、だからすごい結果が出るんだからー」


そう言ってわくわくとした表情で水晶を覗き込むのであった。


だが、俺はそれを聞いて「しまった」と気づく。


「俺の何万分の1だと・・・。そうだとすれば、S級冒険者10人以上の魔力など楽に上回っているぞ!?」


俺のそんな言葉に、シーが「はえ?」と可愛らしい声を上げた。


その瞬間、魔力測定器である水晶が、ベキッ!! という鈍い音を立てて真っ二つに割れてしまったのであった。


そりゃ、俺の魔力の何万分の1ともなれば、そうなるだろうさ。


俺は頭を抱えて、どう弁償したものかと悩むのであった。

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