第21話 冒険者たちへの試練 後編

「ア、アレンさん・・・。ど、どうして止めるんですか!! Aクラスのあんたであっても、こんなことをしでかした奴を許す権利は・・・」


「うるさい! いいから黙らねーかジョシュア!! これ以上喋れば八つ裂きにするぞ!!!」


「ひ、ひいいいいいっ!?!?!」


ジョシュアという男は、アレンという筋骨隆々としたいかにも戦士といった風情の冒険者に一喝されると竦(すく)み上がって尻餅をついてしまう。


そんな情けなく怯える男を無視して、アレンという男は俺の方へと歩いてくると、目の前で大きく頭を下げたのである。


その光景に、周囲にいた冒険者たちからザワッと驚きの声が上がった。


「あ、あのアレンが頭を下げているぞ!?」


「馬鹿な。あのAクラスの中でも指折りの冒険者で、このギルドに所属する冒険者たちのリーダーでもあるアレンがか!?」


「あの若造・・・何者なんだ・・・只者ではないのは既に分かっていたが・・・。も、もしかすると俺たちはとんでもないことをしでかしちまったんじゃないか!?」


そう口々に言い合うのであった。


しまったな、出来るだけ目立たないようにしたかったのだが、思わぬハプニングで実力の一部を露呈することになってしまった。


俺の実力は大きすぎるがゆえに、少しでも外部へと見せることになってしまえば、こうして大きな騒ぎになってしまうのだ。


だからこそ、目立ちたくなかったのだが、やはり真の力というものはどうしてもにじみ出てしまうものなのだろう。結果として僅かばかりの力を見せただけで、こうして注目を浴びてしまった。くそ、自分の大きすぎる力が恨めしい。


そんなことを考えていると、アレンが頭を下げたまま説明を始めた。


「馬鹿が失礼をした。許してやって欲しい。この冒険者ギルドに所属する全冒険者を代表して謝罪する」


その行動にまたしても冒険者たちが大きくざわついた。


まぁ、俺はあんな男の存在など歯牙にもかけていなかったから許すも許さないもないのだが。


「気にしていない。それよりも、あんたは?」


俺にあっさりと許されたことにアレンは驚いた後、敬意を表してか、更に深く頭を下げる。


「謝罪を受け取ってもらい感謝する。俺の名前はアレン。Aクラスの冒険者で、いちおうこのギルドに所属する冒険者たちの代表のような立場にいる・・・。そして、あんたの実力をよく知る者の一人さ」


「ふむ・・・? ああ、なるほど。思い出したぞ。たしか、弾き飛ばされたオリハルコンの剣を、俺に消滅させられた冒険者だな?」


その言葉にアレンが青くなったのが分かった。


どうやら俺の機嫌を損ねたと思ったのだろう。更に深く深く頭を下げる。


やれやれ、俺はその程度のことで怒るような男ではないから、大仰な反応は不要なのだがなあ。


そのうえ、いくら俺の実力の一端を知っているにしても、冒険者たちの代表とも言える男が、こうしてそのギルドの中枢の建物で、しかも当の冒険者たちがいる中で、代表して俺に謝罪するというのは、やめてほしいのだがなあ。


俺は出来るだけ目立ちたくないんだ。


だが、俺が顔を上げるように言っても、アレンは「そのような訳には」と言って、頭を下げたまま説明を続けるのであった。


やれやれ・・・。冒険者たちの代表に頭を下げさせるつもりなど全然なかったのだがなあ。


「あの件は本当に申し訳なかった・・・。俺に恨みを持った冒険者に襲われた際に不意をつかれて剣を弾き飛ばされたんだ。この世で一番硬いと言われるオリハルコンの剣・・・。その弾き飛ばされた先に人がいると分かった瞬間、俺は間違いなくその人は死んだと思ったんだ。だが、信じられないことに、その人は・・・いや、あんたは世界で最も硬い剣をいとも簡単に消滅させてしまった。しかも、本気など一切出している雰囲気ではなかった。俺は一瞬で、あんたの底知れない力を感じたんだ。もちろん、真の実力など、Aランク冒険者程度の俺ごときでは・・・いや、Sランクでさえも、想像することさえできないレベルにあるんだろうがな。まあ、そうして、俺は駆けつけてきたギルドマスターに、事の次第を話したというわけさ」


「そうか、お前がギルドマスターのゴランに話したのか。まったく迷惑な話だ」


俺が冗談っぽくそう言うと、やっと俺が怒っていないことがわかったのか、多少緊張を解いた様子で、続きを話し始めた。


だが、まだ完全にはリラックス出来ないらしい。


やれやれ、俺が強すぎるのが悪いのだが、普通にしてもらいたいものだ。


「ところでアンタ、今日は何だってこんな所までやってきたんだ? やはり例の災厄の案件か?」


その言葉に、今度こそ俺たちを見守っていた周りの冒険者たちから驚きの声と、注目の視線が注がれてしまう。


「ちっ。おい、その話はここではやめてくれ」


俺の言葉にアレンは、しまった、という顔をする。


だが、もう後の祭りだ。


例の災厄の件・・・そう、すなわちカラミティ・ドラゴンこと地上最強の存在、災厄の龍を俺が討伐に向かうためにギルドへ来たことが、周囲にバレてしまったのである。


俺たちを取り巻く冒険者たちは、俺に期待の視線を送ったり、彼ならばきっとやってくれるだろう、などといった無責任な言葉を吐いたりしている。


くそ、これではドラゴンを倒した場合、それが俺の仕業だとバレてしまうではないか。

俺にとっては名声や名誉など煩(わずら)わしいだけだ。


そんなものに興味はない。


俺は静かに暮らしたいだけなのだ。


そして孤児院を守り、少女たちを立派に育てることが大切なのである。


だから目立たずにこっそりとドラゴンを倒し、誰にも知られぬうちに国を救っておこうと思ったのだが、アレンのせいで計画が台無しになってしまった。


「す、すまん。俺の不注意で・・・」


そう言ってアレンから何度も謝罪される。


・・・ふう、だがまあ、アレンも悪気があったわけではない、か。


周囲は今だにざわついたままで、俺たちに熱い視線やエールを贈ってきて鬱陶しいが、ただの雑音だと思って無視することにしよう。


やれやれ、だから目立ちたくなかったのだ。


「まったく・・・。まあ過ぎてしまったことはいいさ。だが、ちょうどいい、アレン。すまないが冒険者登録をして、その後、俺にしか倒せないという例の地上最強災厄の龍、カラミティ・ドラゴン討伐のクエストを受注したいんだ。どっちに行けばいいか教えてくれるか?」


その言葉にアレンは心からホッとした表情を浮かべると、


「はっ、あちらです」


とやたら丁寧な言葉で受付窓口を指差すのであった。


いや、普通にしてくれれば良いんだが。


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