第20話 冒険者たちへの試練 前編
ギルドマスターのドランから直々に俺に頭を下げて頼んできたのはカラミティ・ドラゴン、災厄の龍と呼ばれる最悪最強のドラゴンの討伐依頼であった。
S級冒険者を何十人もぶつけたが敢え無く全滅。そこで俺に白羽の矢が立ったらしい。
確かに俺くらいしかそのような化物を倒せる者はいないのだろうが、やれやれ面倒なことだ。
俺はただひっそりと、孤児院の少女たちと過ごしたいだけだというのに。
名声や権力などに興味がない俺としては、出来るだけ目立ちたくないのだ。
だから、本職の冒険者や軍にがんばってほしいところなのだが、残念ながら俺しかいないのだという。
「はぁ・・・目立ちたくないんだがなあ」
不本意ではあるが、これも孤児院を守るためだ。俺はしぶしぶこの依頼を引き受けるために、冒険者ギルドへと向かうのであった。
ちなみに、リュシア、エリン、シーの3人もついて来ている。無論、俺は強く止めたのだが、俺と離れ離れになるのが嫌だと言って聞かなかったのである。
なるほど一理ある。
最強である俺から離れるよりも、たとえドラゴンを討伐する危険な旅であろうが、むしろ俺の近くにいたほうが安全だろう。それくらい俺の力は圧倒的なのだ。
「まあいいさ。俺から余り離れないようにしろよ?」
俺の言葉に少女たちは、
「は、はい! ずっとずっと一緒にいます!!! 絶対に離れません!!!」
「わ、わたしもです! ずーーーーーーっと一緒にいるつもりですから!!」
「シーもねー、永久に一緒だよ~」
そう口々に答えるのであった。
ところで、やけに力が入っているのは一体全体何なのだろうか・・・?
と、そんな会話をしているうちに冒険者ギルドの建物へと到着する。
俺はためらうことなく、さっさと扉を開けて中へと入った。
中はイメージ通りのレイアウトだ。
壁に依頼が張り出され、戦士や魔法使いといった様々な職業の冒険者たちがテーブルを囲んだり立ち話をしている。受付窓口、買取窓口もある。軽い食事も出来るようだ。
俺たちは中へ入る。すると早速、中にいた冒険者たちの内の一人から、
「おいおい、お前たち来る場所を間違えてんじゃねーのか? ここは屈強な冒険者たちが集まる場所だ。てめーらのようなお子ちゃまたちが来る場所じゃねーんだよ!!!」
そんな声が聞こえてきたのであった。
周囲の者たちの視線が俺たちに注がれる。
だが、俺は実に落ち着いて、その挑発的な言葉を受け止めたのである。
ふむ、見当違いな意見ではあるが、まあ見た目が若いことは事実だしな。
俺はそう考えて全く気分を悪くすることもなく、
「ご忠告感謝する」
それだけ冷静に言うと、そのまま中へと進んで行くのであった。
「て、てめえ! 馬鹿にしてんのか!!!」
だが俺の返答に、なぜかその男は顔を真っ赤にして怒り出すと、テーブルをひっくり返して立ち上がったのである。上に載っていた料理やお酒が床へとぶちまけられた。
「どうした、いきなり怒り出して? 何か非礼があったなら詫びよう」
俺は冷静に質問する。
だが、なぜか男はますます怒り狂うと、
「て、てめええええええええ!!! 若造が舐めてんじゃねえぞおおおおお!!!!!!!」
そう叫んで俺の方へと突進してきたのである。
やれやれ、仕方ないな。
俺は目線でエリンへと目配せする。
すると、エリンは俺からの指示を心待ちにしていたのか、待っていましたとばかりに前に喜々として一歩出ると、杖を前に掲げて呪文を口にするのであった。
「ご主人様には涼しくて気持ちいいと言われてしまいましたが・・・、この技を喰らいなさい!
俺にとってはちょうど良いそよ風くらいの技だが、俺以外の相手にならば脅威以外のなにものでもない氷魔法、コキュートスをエリンは放つ。
「わかっているな?」
俺に声をかけられたエリンは嬉しそうに答える。
「はい! 言われたとおり、ちゃんと地面を狙いました!!」
そう、俺はエリンに、突っ込んでくる男ではなく、あえて地面を狙わせたのだ。
確かにこの男は愚かで救いようがないが、俺は許してやることにしたのである。
なぜなら俺はこうした哀れな弱者たちの生殺与奪の権利握る、圧倒的上位者なのだ。
人々の上に立つものは、愚者を許す寛容さを持たなくてはならないだろう。
だから俺はこうした下らない存在であっても許容することにしたのである。
これもまた、神の如き力を持ったことの弊害と言えるだろう。
エリンの魔法「コキュートス」が放たれた瞬間、冒険者ギルドの床だけでなく、壁や天井、フロアだけでなく建物全体がたちまち凍り始めた。まるで永久凍土の中にいるかのような光景が刹那の内に展開し広がっていくのだ。
俺にとっては冷房替わりの魔法だが、やはり俺以外の者たちには効果は甚大だったようだ。
それは一見屈強な冒険者たちでも例外ではないらしい。
手加減を命じたというのに、ガチガチと歯の根も合わないというように凍え始めたり、寒さの余り、たちまち行動不能に陥ったのである。
「ぎえええええ!?!?!?」
突っ込んで来た男の足にも、たちまち凍りが絡みつき、その場でいくらもがこうと動けなくなってしまった。そして身体をガクガクと震わせ、今にも凍死してしまいそうになってしまう。
「す、すまなかったな・・・。まさか、お前たちがこれくらいで動けなくなるとは思っていなかったんだ。俺にとっては送風替わりの魔法だったもんだから・・・。エリン、解除してやってくれ」
俺がそう指示すると、エリンは、
「了解しました!」
と元気よく返事をして、すぐにコキュートスを解除する。冷気がたちまちなくなり、凍死しかけていた冒険者たちも何とか事なきを得る。
「ふう、危うく殺してしまうところだったな・・・。やはり手加減が一番難しい、か」
俺のそんな呟きに少女たちは、
「ご主人様は強すぎますからね・・・」
「でも、これほど圧倒的な強さを持たれているのに、マサツグ様は相手を許す優しさを持っていらっしゃいます!」
「そうだよ~。神様並みの力と精神を持ってるのに、どんな相手にも対等に接しようとする姿勢はすごいわ~」
だが、俺は首を横に振りつつ、
「いや、強すぎる力を持つ者は、その力に振り回されてはいけないんだ。そういう意味では俺もまだまだということだな。強くなりすぎたために、かえってその強さに踊らされているということだ」
その言葉に、少女たちは驚いた表情を浮かべた。
「あ、あれほどの実力をお持ちなのに、まだ不十分だとおっしゃられるなんて・・・。ご主人様の本当の強さとは、力ではなく、その強さへの姿勢にあるような気がします」
「力は強いだけではダメなんですね・・・。それを制御することこそが力だと・・・。ああ、余りに深い言葉です。まるで魔導の真理を聞いたような気持ちになりました」
「過去に現世に降臨した神様がー、たしか同じ言葉を残してた気がする~。すごいなー、まるでマサツグさん神様みたい~」
「いや、俺なんてまだまだ未熟さ。さあ、それよりも受付を済まそう。俺たちは例のクエストを受注するために、こんなところまで足を運んだんだからな」
俺の言葉に少女たちは、「はい!」と元気よく答えるのであった。
だが、受付窓口に進もうとした俺たちへ、例の男が、またしても口を開いたのである。
「ま、待ちやがれ、こんなことをして只で済むと・・・」
だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「よせ、馬鹿野郎が!! その方は俺たちがかなうようなお人じゃない!!」
そんな怒声が、一人の男から上がったからである。
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