第18話 ギルドマスターからの依頼 中編
俺の「金になど興味はない」という言葉に、ドランがハッとした表情で俺のことを見る。
「し、失礼いたしました。お金ごときで動かれるような方ではありませんでしたね」
そう言って畏敬の念を浮かべるとともに、深々と頭を下げるのであった。
はぁやれやれと、俺は呆れて溜息をつく。
「しょせん金など道具に過ぎない。そんなものに踊らされるなど愚かなことだ」
そんな俺の言葉に、少女たちは何かに気づかされたかのような表情で俺のことを見る。
「そ、そんな考え方があるんですね・・・」
「い、今まで思いつきもしませんでした。お金が、ど、道具に過ぎないだなんて・・・」
「神様だってお金からは自由じゃないのに・・・マサツグさんは人の身でありながら、それを超越しているのね~」
「なに、大したことじゃないさ」
俺はそう言うが、少女たちは何かを考え込むように真剣な表情をするのであった。
少し斬新な話をしすぎたかもしれない。あまり少女たちに影響を与えるつもりはないのだがなぁ。
そんなことを考えていると、ドランが口を開いた。
「先程は大変失礼しました。報酬の件は宿題として持ち帰らせて下さい。それで、もしもドラゴン討伐の依頼をお受け頂けるなら、この後ろにいる傭兵ゴズズに案内をさせるべく連れて参った次第です。この者はAランクのソロ冒険者でして、先日のドランゴン退治に同行し唯一生き残った者です。もちろん、マサツグ様に同行させるならばS級冒険者こそが適切なのですが、既に全滅しておりますので・・・今回は、最もS級に近いと言われたこの者、ゴズズでお許し頂きたいのです」
紹介を受けたゴズズが意気揚々とした表情で前に進み出てきた。
どこかこちらを見下したような、舐めたような表情をしている。恐らく、自分の力を過信し、かつA級冒険者としての驕(おご)りがあるのだろう。
俺は相手を憐憫(れんびん)の目で見ながら、
「足手まといだな。一緒に来てもらっては迷惑極まりない」
そう口にしたのである。
「なんだとおおおお、貴様ぁぁぁああああああっ!?」
俺の言葉にゴズズと呼ばれた男は、たちまち顔を真っ赤にして、憎しみに満ちた表情で俺を睨みつける。
きっと、自らが築いてきた自信やプライドを一瞬にしてズタズタにされたのだろう。
はぁ、と俺は呆れたように大きく溜息をつく。
そんな俺の様子にゴズズは顔をどす黒くして激怒するのであった。
だが、俺は別にこの男を愚弄したくて言ったわけではない。実はコイツの身を案じたのだ。
なぜならば、俺とコイツでは実力に差がありすぎる。
S級に最も近いAだか知らないが、俺からすれば蟻(あり)に等しい。
俺とドラゴンの神にも等しい戦いに、同行してきたコイツが耐えられるとは到底思えない。
ゆえに、仕方なしに強い言葉で諌(いさ)めたのである。
だが、良薬とは口に苦い。
チャンスは与えた。だが、このゴズズという男は、どうやら愚かにも俺から与えられた唯一の希望を自ら捨て去ってしまったのである。
愚か者にはふさわしい末路だが、甘い俺は自分の無力感に打ちひしがれるのであった。
「ゴズズ! 貴様、マサツグ様の優しさ、心の広さが分からんのか!! だからお前はいつまでたってもS級になれんのだぞ!!!」
ふむ、ギルドマスターぐらいになれば、なんとか俺の言葉の真意くらいは分かるらしい。
「うるせえええええええええええええ!! 俺は認めねえええええええええええええええええええええ!!!」
そう耳障りな大声で絶叫したかと思うと、よほど腹に据え兼ねたのであろう。
背負っていた大剣を、なんとギルドマスターの前にもかかわらず抜き放ったのである。
今にも斬りかかってきそうな気配だ。
だが、俺は怯えるどころか、むしろその光景があまりにも愚かで滑稽だったので、思わず吹き出してしまったのである。
すると、男が更に顔を歪めて、まるで世界中の憎悪を集めて煮詰めたかのような視線を俺にぶつけて来るようになってしまった。
さすがの俺も相手に悪いと思い、ニヤケた表情を改め、頑張ってまじめな顔をつくるのであった。これが一番大変だったということは言うまでもない。
「死にやがれえええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
そう言ってゴズズの剣が俺へと振りかざされた。
だが、俺の視点ではその剣が、まるでスロー再生のように見える。
どうかわすか、反撃するか、考える余裕すらあるのだ。
正直言って、相手にならないな。退屈すぎて眠たくなってくる。
「やれやれ余興にもならない・・・」
俺は剣をあっさりとかわしてから落ち着いた調子で、そう感想を呟く。
だが、男は俺の言葉にキョロキョロと周囲を必死に見回している。
そう、完全に俺を見失っているのだ。
そして、俺がどこにいるか理解した途端、驚愕のあまり情けない呻(うめ)き声を上げたのであった。
「ば、馬鹿な、いつの間にっ。全く見えなかったぞ!!!!!?!?!?」
ハァと、俺は頭(かぶり)を振って溜息をつく。
そう、俺は一瞬にして、奴の剣をかわしつつゴズズの後ろへと回り込むという離れ技をやってのけたのだ。実質S級と言われた奴の目ですら、捉えられないほどの神の如きスピードでだが、もちろん、俺にとっては造作もないことである。
「どうした? 遅すぎて止まって見えたぞ?」
俺の言葉にゴズズは、
「くっ、くそっ! マ、マグレだ! マグレに決まってる!!」
そう必死に自分に言い聞かすように叫ぶのであった。
「もうやめておけ。どうやってもお前ごときでは俺には勝てん」
俺は反論するどころか、むしろ相手を心配してそう言う。
だが、ゴズズという男は残酷な現実を受け入れられないらしい。
いや、もしかすると俺と奴との実力差がありすぎて、まるで神や超常現象に直面した時のように、信じることが出来ないのかもしれない。
それは、やはり俺の大きすぎる力が引き起こした悲劇に違いなかった。
「ち、ちくしょおおおおおおおおおお!!!!」
そう言って再度、半泣きになったゴズズはやけくそと言った調子で俺へと斬りかかって来る。
だが、やはり俺にはその姿はスローモーションとなって映ったのであった。
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