第17話 ギルドマスターからの依頼 前編
ある日、冒険者ギルドのマスターであるドランがやって来た。
神妙な顔をしている。何か厄介事だろうか?
なお、前回無礼な物言いをしたシュライとかいう部下は連れてきていないようだ。前に言っていたとおり首にでもしたのだろう。
だが、代わりにむさくるしい男を一人連れてきていた。背が高く、右頬に傷があることからも傭兵くずれのようだ。大きな剣をしょっている。大方護衛といったところだろう。
ふむ、この傭兵、俺に対してこっそりと値踏みするような視線を時折向けているようだ。、本人はバレないと思っているようだが、俺からすれば見抜くことなど容易い。
まあ、今は気にするような事じゃないだろう。雑魚に興味はないからな。
それよりも時間が悪いな。
「ドランか。今はみんなと昼食をとってるところなんだ。少しそこで待っていろ」
俺はドランにそう言って、立たせたまましばらく待たせることにする。
「はい、承知致しました」
とギルドマスターであるドランは素直に頷くと、俺の言葉に従っておとなしく直立不動の姿勢で待つ態度を取る。
ふむ、ドランは俺の実力を正確に把握しているのだろう。だから、ギルドマスターという要職につきながらも、こうした正しい対応ができる。それなりに実力がある証拠だな。
一方で、ドランのそんな態度に、後ろに控えていた傭兵はギョッと目を剥いている。
まあ、大抵の雑魚のリアクションはこんなもんだろう。
雑魚すぎて俺の実力が見抜けないのだ。おそらく、ただの若造くらいにしか見えていないに違いない。
ドランくらいの最低限の実力を持った者が増えれば、俺の気苦労も減るのだが、フゥ、やれやれである。まったく隠れた実力というのも面倒なものだなあ。
俺はそんなことを思いつつ、こっそりと溜息をつくのであった。
「ドラン、構わない。そっちの椅子に座れ」
俺は少し離れたところにあるソファをギルドマスターにすすめる。
だがドランは、
「いえ、マサツグ様に対して、そういう不敬を働く訳には参りませんので」
そう言って固辞するのであった。
「俺が構わないと言っているだろう。あまり気を使わせるな」
俺がそう言うと、かなり迷ったようであるが、ようやくドランはソファへと座るのであった。
そして、深々と頭を下げながら、
「ありがとうございます」
と俺に対して礼を言ったのである。
やれやれ、こうやって色々と気を使わないといけないから、なまじ実力を持つというのは大変なのだ。
やっぱり普通が一番だなあ。
まったく、普通だった頃が懐かしいぜ。
俺は自分の力を恨めしく思うのであった。
「やっぱりご主人様は誰に対しても寛容でいらっしゃるんですね」
「マサツグ様らしくて本当に素晴らしいことです」
「シーもすごいと思う~」
「別に当然のことだろう。大したことじゃないさ。さあ、何はともあれ客人なんだ。食べ終わって話を聞くとしよう」
そんな俺の言葉に少女たちは尊敬するかのような目を向ける。
はぁ、やれやれ。
そんな調子で俺たちは食事を終えて、用件をドランから聞いたのであった。
ドランの用件とは要するに、近くに住み着いたカラミティ・ドラゴン(災厄の龍)を倒して欲しい、ということらしい。
カラミティ・ドラゴンは大陸のS級冒険者が束になってかかっても、良くて相討ち、悪ければ即全滅するというレベルの災厄と言って良いレベルのモンスターらしい。
いや、「らしい」ではない。
実は数日前にS級冒険者10名がカラミティ・ドラゴンの退治のために討伐に向かったのだ。だが、結果は・・・いや、聞くまでもないだろう。もし無事にそいつを倒せていたのなら、ドランが俺の元にこうしてやってくる理由はなかったのだから。
「で、俺の力が必要というわけか?」
俺の言葉にドランは大きく頷き、
「この窮地を救えるのは、この国を救えるのはマサツグ様だけです。そう、S級冒険者を超える冒険者・・・SSS級の冒険者であるマサツグ様だけが!!」
そう言って必死に懇願の眼差しを俺に向けるのであった。
いや、もはや俺だけが唯一の希望なのだろう。
この国を救ってくれと、俺にすがるような視線を向けてくる。
「ご主人様すごい・・・。この街にある冒険者ギルドは大陸でも最大のギルドと言われているのに、そのギルドマスターにここまで頼られるなんて」
「ギルドに所属する全ての冒険者よりマサツグ様お一人の方が強いってことですね!」
「SSS級だなんて、大陸でもマサツグさんだけじゃないかしら~」
だが、俺は首を横に振りつつ、
「ランキングなんてどうでもいいさ。どうせ俺の真の実力は、他の誰にも理解なんて出来ないだろうからな。他人が俺の事をいくらSSSと評価しようが、しょせんソレは正確な評価ではないんだ」
俺が少し寂しそうにそう言うと、少女たちも沈んだ声で答えた。
「ご主人様は強すぎますもんね・・・」
「強すぎるゆえの孤独ですか・・・。エリンには分からない感覚です・・・。ごめんなさいマサツグ様・・・」
「精霊神であるシーでも、追いつけないと思うことがあるもんねー」
「ふ、俺のことなんてどうでもいいさ。さあ、それよりもドランの件だ」
「ご主人様・・・」
リュシアが何か言いたそうな目で見つめてくる。
だが俺はあえてそれを無視するようにして、ドランに話の続きを促すのであった。
「はっ。カラミティ・ドラゴンの討伐を、冒険者ギルドのマスターである私から、マサツグ様へ正式にご依頼させて頂く次第です。報酬としましては、白貨100枚でいかがでしょうか」
その言葉に、少女たちが驚きの声を上げた。
「は、白貨100枚!?!?!?!?」
「そ、そんな報酬額、聞いたことがありません!! 冒険者ギルド始まって以来の快挙に違いありませんよ! きっと今後も破られることはないですしょう!! だって、い、1億ギエルですよ!?!?!?!」
「こ、これはマサツグさんの名前が永遠に歴史に残っちゃいそうだね~」
だが、驚く少女たちをよそに、ドランは、
「いえ、これくらいの額は当然のことです」
と、至極冷静に答える。
ただ俺は、
「ドラン、俺は金になど興味はない」
と、素っ気なく返事をするのであった。
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